コラム43:美容を生きる力へ

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予防美容サロンmatane
美容師
木野田 秀樹さま
(ELC第36回生、認定エンドオブライフ・ケア援助士、認定ELCファシリテーター)

 私は札幌で予防美容サロンを開業している美容師です。

 変わりゆく、私たちの環境。少しずつお客様の悩みにも変化がみえます。

 先進国でアレルギー大国の日本。ここ数年の温暖化や少子高齢化、環境問題。私たちの生活環境は加速度に大きく変化しています。年代問わず、アレルギーや身体の不調の相談が増加。そして老化への不安などもうかがいます。サロンでは東洋医学の考えに基づく自然治癒力に着目し、不調やエイジングの悩みをケアするための総合美容を目指しております。

 一般的に美容室では、お客様のヘアーの悩みの対処法として商材ありきになりがちになってしまいます。例えば「髪が抜ける、薄毛」などの悩みには、育毛剤やシャンプーをお勧めしますし、髪がダメージを受け傷んだ状態のときは、トリートメントケアや洗い流さないトリートメント剤をお勧めしますが、すべて一時的な処方方針です。それらの対処法が間違っているかといえば、決して間違いではないのですが、違和感を感じていました。実際にはその時はよくなっても長くは続きません。

 そんな中、あるお客様にがんが見つかり、抗がん剤治療をすることになりました。日に日に抜け落ちる髪。私は自宅に行き、部分的に残っている髪の毛を二人で涙を浮かべながらすべて取り除きました。やがてお客様の髪が生えてきたのですが、毛が縮れて生えてきたのです。元のような直毛できれいな髪を取り戻すにはどうしたらよいのか?更に毛髪についての勉強をしました。「健康な髪は健康な体から作られる」という考えの基、髪だけではなく頭皮環境を整えながら、体・心を総合的にケアしなければ回復や改善には繋がらない。体や心の問題にはどう向き合い、どのようなケアがベストなのか試行錯誤しながら、私が今できることをとにかく実践してみようと考え、2015年に予防美容サロンとして開業しました。

 癒しからアレルギー対策・健康維持まで予防美容の観点から美をつくり、からだのバランスを整える総合美容。人生100年時代に向けて、自分らしく自分の意志で生きる社会にしたい。女性にとって「美」に関心を持ち続けることは、いくつになっても自分への自信や心の健康につながる重要なポイントです。

 20代後半で乳癌と診断されたお客様がいらっしゃいました。乳房を切除することになり、乳房を切除する前に、まだ若かったお客様から相談を受けました。「美しく生きた証の写真を撮りたい」。私は最善を尽くして美しく仕上げる努力をしました。

 その後無事撮影を終え、抗がん剤治療がはじまりました。とてもおしゃれ好きだったお客様は、ウイッグを買いそろえてヘアデザインやカラーを楽しんでいました。好きな音楽アーティストがいて、いつもご来店されるたびに幸せそうにお話しされていました。

 数か月がたち、お母様からあまり経過がよくないとお話がありました。

 幾日がたち、お母様が来店、「娘もうだめかもしれない」との一言。

  最後にお会いした時には体重が減り、お痩せになっていて、お店に来るのもやっとで歩くことも困難な状況でした。食欲もきっと低下していたのでしょう。目だけが大きく見えたことが印象に残っていました。それでもおしゃれを楽しむために通ってくださったお客様。

 お母様からは、「娘はおしゃれがとても好きな子だから、亡くなった時はヘアーメイクお願いできる?」とご依頼をうけていましたが、亡くなったときは髪がなく、メイクだけさせていただきました。

 数日後、お母さまが撮影した時の写真を持ってきました。そこにはとても輝かしく、本当にきれいな表情を浮かべたお客様が写し出されていました。

 エンドオフライフ・ケア援助者養成基礎講座を受講して初めて、支えという言葉に気づかされました。

 その当時お客様、自身の支えは何だったのか?お母さまの支えそして私自身の支えは・・・?

 もしその当時講座に参加していたら、もっと私にできることがあったのかもしれません。

 私は現在サロンでの営業の他に、介護美容ケアとして自宅訪問と福祉施設に訪問をしております。

 在宅でのケアは主にシャンプーやヘッドマッサージをしています。体を触れることができなくなってしまった方に限られた環境で、リラックスしてもらうことはできないだろうか。もっと癒すことはできないだろうかと考え、シャンプーに加え頭皮のマッサージを勉強し頭を心地よく安全にケアする方法を学び実践しております。

 福祉施設へは癒しと睡眠をテーマに、頭皮の洗浄・頭皮ヨガ・メイク・ハンドケアなどお好きな施術を組み合わせて受けていただく「わくわく・キレイ元気塾」というレクレーション活動を行っております。認知症の方で最初はメイクはいらないと言っていた方でも頭皮のケアを行った後はとても穏やかになり、「メイクもしたい」と積極的に受けてくださります。

 このように普段していたこと、特別な事ではないことを、自らの手でできなくなった方々へのケアとしても、とても重要だと感じております。綺麗ごとといわれるかもしれませんが、私がエンドオフライフ・ケア援助者養成基礎講座を受講したのは、私でも(美容)できることがあるのであれば、今まで足を運んできていただいたお客様のために、今度は我々が足を運び、人生の最終段階のお迎えが来る前までその方の生きてきた、そのひと「らしさ」を支援したいと思ったからです。

  私たちは、触れられることによって自分が愛され大切にされていると感じることができます。身近にいる人との、愛情あふれる触れ合いには、痛みを和らげ悲しみを癒す効果があるといわれています。誰でも一度は子供のころ「よい子だね」など頭を優しく撫でてもらった記憶があるのではないでしょうか。その時の「安心感」や「嬉しさ」、触れるという美容の行為でお迎えが来る直前まで髪をシャンプーしメイクをし最後に頭を撫で「ご活躍様でした、ありがとう」と感謝をつたえたい。家族のかたがそばにいるのであれば家族のかたと一緒に施術をし、穏やかな表情で最期を迎えていただける看取りの援助のひとつとしてお手伝いさせていただきたいと願っております。

 今後は賛同してくれる仲間を増やし、美容を医療や福祉にも役立てるように人材育成と普及活動をしていきたいと考えております。

 先日介護士のお客様が看取りの方を担当することになり、学習会を開かせていただきました。職種は違いますが「何をすると援助になるのか」というテーマは一緒です。エンドオフライフ・ケア援助者養成基礎講座で学んだ「解決が困難な苦しみを抱えた人に対する援助を言葉にすること」。励ましではなく、何かの説明でもない、具体的に何をするとよいのか、言葉にすることができれば、人生の最終段階を迎えた人と関わる自身の自信にもつながる。やがて個人から地域そして社会へつながるよう関わっていけたらと思っております。

 

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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