What is End-of-Life Care?

1. ホスピス・緩和ケアの歴史

 ホスピス・緩和ケアの歴史は、社会的弱者や貧困・困窮の人への支援から始まりました。「もてなす」という意味を持つラテン語 hospitium に由来するホスピスは、4世紀頃に修道院で旅人や病者をもてなす“客人宿”として始まり、11世紀の十字軍遠征期には巡礼者や傷病者のための安息所として発展しました。

 その後、巡礼者や旅行者のための宿泊所・避難場所を意味するようになり、1879年、アイルランド・ダブリンにてカトリック修道女による慈善団体が設立した聖母ホスピス(Our Lady’s Hospice)は、後の現代ホスピス運動の先駆けとなりました。

 1967年、シシリー・ソンダース(Cicely Saunders)によりロンドンに設立されたセントクリストファー・ホスピスでは、悪性腫瘍による痛みを和らげるために医療用麻薬を適切に用いた疼痛緩和が体系的に行われました。ソンダースは「トータルペイン(全人的苦痛)」の概念を提唱し、身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな側面を統合したケアを実践。この取り組みによって、“ホスピス”という概念は、看取りに関わる包括的ケアのあり方として世界に広く知られるようになりました。ホスピスケアは、それまでの宗教的・慈善的支援から、科学的根拠と人間の尊厳を両立させた医療的ケアへと発展していったのです。

 その後、1975年、カナダ・モントリオールのロイヤル・ビクトリア病院(Royal Victoria Hospital)に、世界初の「緩和ケア病棟(Palliative Care Unit)」が開設されました。これは、セントクリストファー・ホスピスで培われた“全人的ケア”の理念を、一般医療の中に統合する試みでした。以降、“ホスピス”という言葉が持つ宗教的ニュアンスに代わって、「緩和ケア(Palliative Care)」という概念が、医療の専門領域として国際的に普及していきました。

 1989年には、WHO(世界保健機関)が国際的な緩和ケアの定義を発表し、2002年の改定では「苦痛の予防と緩和」「QOL(生活の質)の向上」「早期からの緩和ケアの重要性」が明記されました。これにより、緩和ケアは終末期だけでなく、病の初期段階から人生全体を支える包括的ケアとして位置づけられるようになりました。

2. エンドオブライフ・ケアと意思決定支援

 現代のホスピス・緩和ケアは、宗教的ケアから出発し、悪性腫瘍(がん)に対する疼痛緩和の導入を経て、死の過程における人間の尊厳と穏やかさを支える全人的援助のプログラムへと発展してきました。

 その一方で、これとは異なる文脈から発展してきた重要な領域があります。それが、「患者の権利」や「自己決定」を尊重する考え方に基づく医療倫理の潮流です。

 1950〜60年代、集中治療技術の飛躍的な発展により、心肺蘇生法や人工呼吸器といった延命医療が導入されました。 これにより救命率は上がった一方で、患者本人や家族の意思確認が不十分なまま治療が開始されるケースが多く、「治療をいつ、どのように中止・継続するか」という倫理的課題が浮上しました。

 このような議論の中から、「リビングウィル」や「事前指示書(アドバンス・ディレクティブ)」などの考え方が生まれ、患者の自己決定権を法的・倫理的に支える仕組みが世界的に整えられていきました。

リビングウィル(Living Will)

人生の最終段階において、
・どのような治療を望むか/望まないか
・延命治療や心肺蘇生術を希望するかどうか
といった本人の意思を、あらかじめ文書で記録しておくものです。
自ら意思を伝えられなくなった際に、その人の価値観や希望を医療現場に伝える役割を果たします。

事前指示書 (アドバンス・ディレクティブ)

 リビングウィルに加えて、意識障害などにより自分で自分の意思を伝えられなくなった場合に、自分の代わりに意思を表明してくれる医療代理人を指名しておくことを含みます。

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)

 リビングウィル・事前指示書だけでは、その実施にあたってはいくつかの課題がありました。特に代理人になった人が、判断する責任の大きさから、意思決定にあたって決めた後で後悔するなど、満足度の高い意思決定支援が難しいことがあります。そこで、本人が大切にしてきた生き方・考え方を元に話し合いを進めていく新しい方法としてACPの考え方が大切になりました。



 一般的にエンドオブライフ・ケアというと、この患者さん・家族の権利を守り、本人の自己決定を支援する考え方(意思決定支援)を基礎としたケアを中心にする考えがあります。リビングウィルや事前指示書(アドバンス・ディレクティブ)、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)などは、この領域に含まれます。

3. ACPの4つの段階

 上記で紹介したホスピス・緩和ケアとエンドオブライフ・ケアは、出発点が異なります。前者は「苦しみを和らげるケア」から、後者は「意思を尊重する支援」から発展してきました。したがって、研修での学びの焦点にもそれぞれ特徴があります。結論から言えば、その両方が必要です。

 では、看取りの現場では、どのような姿勢や関わりが求められるのでしょうか。

 一言で“看取りの現場”といっても、積極的な治療を行う急性期病院と、慢性期を支える介護施設や在宅ケアとでは、求められる関わり方の焦点が異なります。それぞれの場に応じた、学びと実践の形が必要です。

ACPには大きく4つの段階があります

1.意思形成

 本人の意思の全体像ではなく、その断片(ピース; piece)が言葉として発せられている段階。
例)「自分もこんな最期がいいな」「自分だったらこれは嫌だな」

2.意思表明

 本人の意思の断片がパズルのように組み合わされ、価値観、大切にしていること、譲れないこと、気がかり、目標、選好などを表明する段階。
例)「このような状況で最期を迎えるのは、〇〇の理由で嫌だ」

3.意思決定

 本人が、実際に自分はこういう医療・ケアを将来受けたい・受けたくないと決めたり、選択肢から選ぶ段階。
例)「自宅での療養を望む・望まない」

4.意思実現

 本人の意思を、関係者の意向やその場の状況、関係者の価値観の対立などに配慮しながら実現していく段階。

 参考:西川満則/大城京子, 『ACP入門 人生会議の始め方ガイド』, 日経BP社



 

 これらの4つの段階は、直線的に進むものではなく、状況の変化や本人の心の揺れに応じて行き来しながら深まっていく循環的なプロセスです。

 主に急性期病院では、診断と治療を中心に提供される場面で意思表明と意思決定が大切になることでしょう。一方、慢性期を担当する介護施設や自宅では、意思表明や意思決定に加えて、決めた選択肢を最期まで実現できる意思実現が大切になります。積極的な治療が難しくなった人は、急性期の病院で最期まで過ごすことは難しい時代が来ることが予想されるからです。

 もし在宅で最期まで過ごしたいと希望されたならば、その希望を実現できるための学びが必要になります。

4.意思実現として限られたいのちと誠実に関わるために
― 何を学ぶとよいのでしょう? ―

 エンドオブライフ・ケア協会では、決めた内容を実現できるよう支援することを大切に、また、たとえ決めることができなかったとしても本人が穏やかであることを大切に、研修を企画しています。その背景には、ホスピス・緩和ケアの流れをくむ対人援助の考え方があります。

 具体的に限られたいのちと関わるためには、何を目標に関わるとよいのでしょう?

 ポイントは、“穏やか”であることをゴールに関わることです。何があると、本人と家族、そして関わる私たちは穏やかになれるのでしょう?と問うてみてください。痛みがないこと、希望する医療・希望しない医療を選択することも大切です。しかし、実際の現場では、足りないことがあります。

  • 家族に迷惑ばかりかける
  • なんでこんな病気になったのだろう?
  • 私これからどうなるの?
  • 早く死んでしまいたい…。

このような苦しみを訴える人を前に、何を学ぶとよいのでしょう?

 この数年、ホスピス・緩和ケア、ACPなど、様々な研修が企画され実施されてきました。しかし、迷惑ばかりかける、早く死んでしまいたいと訴える人への関わりは、講義を聴いたり、テキストを読んだりするだけでは対応できないことは自明です。実際に模擬患者さんを相手に、ロールプレイを実演して、具体的な対話の方法を学ばなければ、関わることはできません。

 エンドオブライフ・ケア協会は、実際の現場で、具体的に関わることができる担い手を育てる活動を2015年から行ってきました。受講生3人で患者役、聴き役、観察者としてロールプレイを行います。その際、患者役は、「迷惑ばかりかける、なんでこんな病気になってしまったのか」というセリフを冒頭に設定します。聴き役は、誰でも行えるシンプルな方法で対話を続け、6-7分後には、患者役のつらい気持ちが、穏やかになることを体感できるようになります。この対話は、職種を問わず、一般の方でも実践することができる、具体的な関わり方です。

 職種や世代や立場に関わらず、誰もが、ユニバーサル・ホスピスマインドを学び、実践し、人生の最期まで穏やかに暮らせる社会を、ともに作りませんか?

エンドオブライフ・ケア協会を応援する

ユニバーサル・ホスピスマインドをすべての人生のそばに届けるために、ともに活動しませんか。

  • 個人の方へ

    寄付やボランティア、グッズの購入など様々な方法で
    応援ができます。

    詳しく見る
  • 法人の方へ

    法人寄付や、専門性を通じたプロボノ、制作支援、研究など、様々な形でご協力をいただいております。

    詳しく見る
TOP