第55回「エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座」(福岡)

  • 開催レポート

1月19日(土)・20日(日)、福岡でエンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座を開催いたしました。当日は86名の皆さまにご参加いただきました(2日間の受講者、eラーニング+2日目集合研修の受講者、ファシリテーター候補者枠の方を含む)。開催にあたり、運営をご支援くださった地域学習会ファシリテーターならびにファシリテーター候補者のみなさまに心より御礼申し上げます。  

参加者

職種の内訳は、看護師57%、介護支援専門員12%、医師11%、リハビリテーション職6%、介護職5%、薬剤師4%、訪問診療事務2%、ソーシャルワーカー1%、その他2%でした。その他職種には臨床工学技士、看護学生など、多彩な職種のみなさまにご参加いただきました。

地域別では開催地の福岡をはじめ九州各地と近隣の山口のほか、四国や沖縄、北海道など遠方からのご参加者もいらっしゃいました。

 

講座の様子

協会理事であり、横浜で在宅診療を行うめぐみ在宅クリニック院長の小澤 竹俊が、2日間の講師を務めました。


2日間の講座では、以下の要素を学びます。

  • 課題背景(2025年問題に備えて)
  • 人生の最終段階に共通する自然経過
  • 苦しむ人への援助と5つの課題
  • 意思決定支援
  • 自宅・介護施設で求められる症状緩和
  • 多職種連携で「援助」を言葉にする(マクロ)
  • 1対1で対応する(ミクロ)

ただ受け身で聞くのではなく、ロールプレイや事例検討のためのグループワーク、学んだことの振り返りなど、ほとんど休む間もなく、口と手をたくさん動かしていただきました。

懇親会

終了後、半数以上の方が懇親会にご参加くださいました。

 

受講者の生の声(後日)

受講後、職場に戻って実践していらっしゃるみなさまの声をお聴きしました。

田中孝直さま、医師
在宅療養支援診療所(北海道)

・参加動機
「黒のキャリーケースを引いた何かを発する小柄な男性が隣に!」
 一人在宅支援診療所医師にとって学会出席は困難。幸運にも半日出席叶った学会の書籍ブースに立ち寄った際、一瞬交わした視線と笑顔の主が小澤先生でした。今でもその瞬間の不思議なワクワク感は忘れられません。漏れ聞こえるJUJUの曲に惹かれて入った満席の会場の演台に先ほどの男性が。私は最前列に着席し、止まらない涙と薄れゆく孤独感を味わった約1時間。それ以来、小澤先生は私のメンターです。養成講座に申し込みをするも出席叶わずキャンセルを繰り返した3年でしたが、常勤医師が入職くださり待望叶ってようやく出席できた福岡場所でした。


・養成講座で得られたこと
 これまで、医師として、病める、弱める、悩める方々の為に、自分はどんな関わりができるか。模索して、関わり、壁にぶつかる。その相手は、患者さん、家族、医療制度、地域、文化でした。自分に出来ることを、自分を信じてやり続けるしかありませんでした。いつの日か、孤独感を慢性的に味わう日々に慣れ、自分の疲弊した気持ちに向き合う事を忘れる程、沢山の死を前にした人、そこに関わる多様な価値観を持ち集まった多職種との日々の交流が目の前にありました。療養の方向性を統一するためのカンファランスは適宜行ってきましたが、多職種の信念の対立から来るものと考えられる、何となく疎遠な遠慮がちなまとまらないチームの雰囲気を感じることも少なくありませんでした。養成講座を受講して、これまで通してきた、背中を見て、雰囲気を感じて、それぞれが出来ることをやるという事ではチームはまとまらない。励ましの通じない状況にある方のケアには、ケアにあたる我々に共通言語が必要だということを感じました。

・現場で実践していること
 患者さんのお宅でこれまで以上に診療に時間をかけ、患者さんから出てくる言葉を丁寧に味わう事を心掛けるようにしています。一緒に講座に参加したクリニックスタッフからは自分に出来るようになるにはまだまだ時間がかかる。自信がない。それでも講座の前後では丁寧にかかわる事についての意識が明らかに変わった。毎日のケアに前向きに取り組めそう。そんな感想が得られました。当クリニック診療圏の多職種に声をかけ、お宅の会なるものを結成してみました。腹の見える関係を目指して立ち上げたものですが、先日の講座で吸収した内容をより多くの人に伝えられるよう、事例検討を通して、苦しみ、支え、今まで以上に意識するような内容で継続しています。ELC北海道の開催には多くの関心の声が寄せられています。

・受講検討中の方へのおすすめのポイント
 普段置かれている環境で、孤独感や悶々としたジレンマを感じている方々も多いのかもしれません。ここでの講座の内容は、きっとそんなマイナスの気持ちを払拭してくれるものになるでしょう。小澤先生、全国の仲間との出会いと繋がりが、一つの支えになるはずです。1日目終了後の懇親会は最高です。

 

大石杏衣さま、臨床工学技士
医療法人敬天会 武田病院(福岡県)

 私は療養型病院で臨床工学技士として、人工呼吸器管理と医療機器管理に従事しています。以前、急性期で働いていた時は、患者様との関わりは手術時のみの一時的なものでした。しかし、現在の病院で、看取りまで患者様やご家族と関わっていく中で、終末期医療の奥深さと難しさを感じていました。

 人工呼吸器を装着している患者様は意思疎通が難しい方がほとんどです。ご家族と話をする機会が多くありますが、この選択で本人にとって良かったのか?本人はつらいのではないか?あんなに元気だったのに…。と話される方もいらっしゃいます。そんな時、何と答えたら良いのか、長い沈黙は余計な心配や不安を与えるのではないか、医療従事者として何か「答え」をださなければならないのではないかと思いながら、いつも自分の「答え」をご家族に話していました。そんな時に、エンドオブライフ・ケア養成講座を知り、受講させていただきました。

 講座は小澤先生のテンポの良いお話で進んでいき、聞けば聞くほど、自分の中にあった霧が晴れていく感じです。しかし、ロールプレイで実践すると、たった今納得し理解したはずなのに、なんと難しいことか…。

 ロールプレイで一番の気付きになったのは患者役をした時です。治療をがんばったのに、これ以上の治療ができないという設定でやり取りをした際は、患者役の私は絶望の中にいるため、初めは自然とうつむいて話をしていました。それが、相手役に自分の思いが伝わっている、わかってくれていると思うと、自然と目線が上を向き、相手役の目を見て話し始めていることに気付きました。自分自身が、患者、相談員、医療者、奥様など様々な役になりロールプレイし、患者や家族の立場も経験できたことは貴重な体験でした。

 その後、職場でご家族と話す時は「反復」「沈黙」「問いかけ」をできるだけ実践し「わかってくれる人」でいられるよう心掛けています。「いつも話を聴いてくれてありがとう」と言っていただいた時は、今までにないうれしい気持ちを感じています。また、意思疎通が難しい患者様にも、時間の許す限り声掛けをし、髪をとかしてあげることをしています。言葉にならないものの表情が穏やかになったり、うなずいてくれた時は、やはりうれしい気持ちを感じています。
 
 実践し始めて、エンドオブライフ・ケアを実践していくためには、まずは、自分自身も充実し、気持ちに余裕をもたなければならないなと感じています。ただし、がんばりすぎたり、抱え込む必要はなく、小澤先生がおっしゃるように「誰かを支えようとしている人ほど、誰かの支えを必要としている」んだ。私も支えてもらいながら成長していけばいいんだという気持ちを忘れないように取り組んでいます。

 小澤先生の話、そしてロールプレイでの体験、一緒に2日間頑張った様々な職種の方々とのつながりは、終末期医療だけでなく、友人や職場での人間関係、子どもとの関わり方にとってもプラスになると思います。

 私は、今後、一人でも多くの方にエンドオブライフ・ケアについて知ってもらうため、ファシリテーターを目指そうと思っています。そして、自分の職場、地域、子どもたち、そして臨床工学技士の中にエンドオブライフ・ケアを広めていきたいと思います。

 

林良彦さま、医師
社会医療法人財団天心堂へつぎ病院(大分県)

 人生の最終段階におけるスピリチュアルケアの研修は傾聴・共感の実践を中心として数多くあります。そんな中、2019年1月にELC協会の援助者養成講座を受講しました。傾聴・共感するスキルはどの研修も共通な部分が多く、ロールプレイもこなしてきましたが、臨床の現場では相手の鏡となって共感できたとしても相手が自己成長して心が穏やかになるかいなかは相手次第である事に若干物足りなさがあったからです。福岡の援助者養成講座を受講したのは相手の苦しみをキャッチした後のスキル、すなわち相手の支えをキャッチしてその支えを強化するスキルを学びたかったからです。実際の講座を受講してみると期待通りの講座でした。すぐにでも応用可能だと思いました。さらには支えとなる自分自身の支えは、現場ではあいまいとしたものでしたが、今回の受講で初めて言葉として理解することが出来ました。

 臨床の現場に戻って早速援助的コミュニケーションを実践しています。私の外来スタイルは病気の話しではなく(特に臨床症状がなければ)世間一般の話や心の話を話題にしているので、人生の最終段階の患者に限らず一般外来の患者にも応用しています。たとえば高血圧で定期受診している患者に“今まであなたの支えになってきた人や物とか何かありましたか?”と質問するとたいていの患者さんはキョトンとしていますが笑顔になります。緩和ケア外来の患者さんははっきりと質問に答えてくれます。病気になったことで今まで気がつかなかった事に、気がつくようになったからだと思います。そんな患者さんは緩和ケア病棟に入院すれば、すぐにでも支えを強化することが出来ると感じています。また心が穏やかになっていく患者さんも確率が高くなったように思います。

 本当にありがとうございました。次はディグニティセラピーワークショップです!!

 

木村衣里さま、医師(福岡県)

 私は緩和ケア科の医師として働いています。末期癌の患者さんや、認知症と様々な疾患が進行する患者さん達と接するなかで、医学だけでは解決することのできない様々な問題に直面します。どれほど医学や科学が発展しても、命の終わりは訪れるもので、無力感や理不尽な悲しみに押しつぶされそうになることが多々あります。私にできることは、一生懸命患者さんの側で診察をし、がむしゃらに勉強することだと考えてきました。必死で勉強していた本の中に、小澤先生の本がありました。医師3年目の冬に出会った小澤先生の「真の力とは、たとえ解決できない問題を前に弱く無力な私達であったとしても、逃げないで最後までその人と向き合う力です。*」という言葉を、院内でつける名札の裏に記し、自分の無力感で前に進むのが怖くなる時、名札を裏返し、その言葉に何度も背中を押してもらっていました。エンドオブライフ・ケア研修会を知ったのは、それから1年ほど後のことで、小澤先生から、更にスピリチュアルケアについて学びたいと思っていました。

 エンドオブライフ・ケア研修会に参加を終え、日常診療にも良い方向に影響が出ていると感じています。エンドオブライフ・ケア研修会では、多職種が同じグループゆっくりと時間をかけて事例検討を行えました。各職種がどのような視点で患者さんを支援していらっしゃるのか、垣間見ることができました。実臨床では時間に追われて見えていなかった、各職種の得意不得意を共有し、今後、どのようにコミュニケーションを心がけるとお互いの意見が実現しやすいのかといったディスカッションも行うことができ、翌日からの患者さん支援で生かしています。

 また、長らく、小澤先生の言葉に支えられてきたため、2日間に渡って、小澤先生御自身から熱い授業を受けることができて感激しました。先生やスタッフの皆様の想いに触れて、より一層精進していきたいと思いました。

 まだまだ未熟な身ではありますが、これからも1人でも多くの方が少しでも過ごしたい過ごし方に近づけるように、微力ながら精一杯支援を続けてまいります。
*(医療者のための実践スピリチュアルケアより引用)

 

岡野小春さま、看護師
医療法人博愛会 頴田病院(福岡県)

 私は幼少時からの父の勧めで、看護師になりました。しかし私が看護師になる前に、父は事故により別れを惜しむ間もなく亡くなり、父親に看護師として働く姿を見せることはおろか、お別れを言うことすら出来ませんでした。私は娘として、また看護師として「父の最期」を看ることが出来なかったことをずっと後悔していました。看護師になり終末期の患者さんが「帰りたい」と言っていても、家族負担や医療事情で帰れず、家族との時間が十分取れない姿に疑問を感じ、その人達が後悔しないようにもっと自分に何かできることはないだろうかと考えて悶々としていました。そんな思いも「父を家で最期まで看たかった」という思いも「在宅医療の現場なら自分の気持ちが消化できるかもしれない」と在宅医療の現場に転職しました。

 そのなかである看取りの現場に遭遇しました。臨死期の患者と現実を受け止められない家族を目の前に、「何と声をかけたら良いのか、何をしたら良いのか、この家族が現状を受け止めるにはどうしたら良いのか」が分からず、ただその場にいることしか出来ない無力な自分が悔しく思え、同時にその場から逃げることも出来ない状況に精神的苦痛を覚えました。

 そのような時にNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で小澤竹俊先生を知りました。話すことが出来なくなった患者の心音を家族に聞かせていた場面がとても印象的で「この先生がしているようなことを私もしたい」と強く思いました。小澤竹俊先生の著書を読み、ウェブサイトで今回の講座があることを知り参加を希望しました。

 今回、援助的コミュニケーション技法を講義やロールプレイで学びました。その中で「反復・沈黙」は特に自分にとって苦手意識がありましたが、「反復・沈黙」は自分が想像していたより「わかってもらえた。ちゃんと話を聞いてもらえた」と相手が感じることを実感できました。また問いかけの技法では、自分の支えに気付き、病気で辛いはずなのに、心が少しだけ明るくなった気分がしました。そして支えに気付いた時の相手の表情が変わったこともとても印象的で、かつ苦しみの中でも支えがあれば穏やかな気持ちに少しでもなれることを感じました。

 受講中ある患者のことを考えていました。それは「早く死にたい。自分がいることで家族に迷惑かけるだけ」という言葉を繰り返し、自分の気持ちを打ち明けないAさんのことでした。受講後、実際にAさんに反復・沈黙・問いかけの技法を使い、「今、一番気になっていること、何かありますか?」という声かけで、Aさんが少し自分のことを話してくれました。私との会話の中でAさんは自分の心の支えとなる家族を再認識できた瞬間に表情が変わったことが私にも分かりました。「現場が先生」ということを実感出来た瞬間です。

 いま年間130人ほどの方々のお看取りをしているところで働いています。これから先も、たくさんの患者、家族と出会っていく中で、その方々が穏やかに最期まで過ごせるよう、学んだ技法をより深め、現場で学び、それらを活かしながら「わかってくれる人」になれるよう看護師として頑張っていきたいと思います。また職場のスタッフや、その患者に関わる方々にもこの方法を広めて、チームみんなで患者の支えを強くできればと思っています。

 

まとめ

福岡での開催は、昨年7月の第48回に続き7回目の開催でした。九州山口ブロックでは認定ファシリテーターのみなさまにより、山口、糸島唐津、北九州、熊本、奄美、鹿児島・喜入など継続的な地域学習会が企画されています。

協会としては2日間の講座を提供して終わりではなく、受講した方がさらに理解を深め、実践し、振り返り、自らと周囲を進化させていく、そんなお手伝いができたらと願っております。

次回は、1月26日(土)-27日(日)、東京開催をレポートいたします。

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