1月27日(土)・28日(日)、東京でエンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座を開催いたしました。当日は96名の皆さまにご参加いただきました(2日間の受講者、eラーニング+2日目集合研修の受講者、ファシリテーター候補者枠の方を含む)。開催にあたり、運営をご支援くださった地域学習会ファシリテーターならびにファシリテーター候補者のみなさまに心より御礼申し上げます。
職種の内訳は、看護師57%、医師7%、リハビリテーション職6%、介護支援専門員6%、事務職4%、介護職3%、薬剤師3%、ソーシャルワーカー2%、その他12%でした。その他職種には歯科衛生士、保健師、相談員、カウンセラー、マッサージ師、教員、経営者など、多彩な職種のみなさまにご参加いただきました。
地域別では開催地の東京および埼玉、千葉、神奈川などの近県のほか、北は北海道から南は広島や愛媛など、遠方からのご参加者もいらっしゃいました。
協会理事であり、横浜で在宅診療を行うめぐみ在宅クリニック院長の小澤 竹俊が、2日間の講師を務めました。
2日間の講座では、以下の要素を学びます。
ただ受け身で聞くのではなく、ロールプレイや事例検討のためのグループワーク、学んだことの振り返りなど、ほとんど休む間もなく、口と手をたくさん動かしていただきました。
終了後、半数近くの方が懇親会にご参加くださいました。
受講後、職場に戻って実践していらっしゃるみなさまの声をお聴きしました。
中根太志さま、看護師
訪問診療クリニック在籍(東京都)
在宅医療の分野で働いている看護師です。自分自身が、苦しんでいる患者さんとの関わりでどう声を掛けたらいいのか悩むこともある中、一緒に働いた事のある先生からELCの講習を受け非常に感銘を受けたという話を伺い、自分も講習を受けることにしました。
講習を受け、今までの自分は患者さんの問い掛けや言葉に対し何かしらの解決策を出さなければ、と躍起になっていた気もします。もちろんそれが必要な場面は多くありますが、答えを出すことだけが正解ではなく、苦しみを抱える人は何か支えを必要としている、その支えになりうる一つとしてはその苦しみを理解しようとしてくれる人がいると感じることが出来ることなのだ、という事を学ぶことが出来、目から鱗が落ちたような気持ちでした。
講習後、肺癌末期で独居の男性患者さんと関わりました。その方は病院を退院し自分でなんでもしなきゃ、と躍起になり、診療時に処方された薬も何をどのように飲んでいいのかわからなくなりめちゃくちゃな状態。一人で買い物に行くのも息切れがしてしまうのですが、ケアマネジャーの買い物支援など提案も「そんなのは自分でできるのだから必要ない」と断ってしまう状況でした。そんな中、訪問した際に習ったばかりの反復と沈黙を活用しながらご本人の話を伺うと、「これからどんな症状が出てくるのかわからない」という不安な気持ちや、「今まで好きに生きてきたからあとはその日その日を生きていければいい」というある意味では諦めのような気持ちを涙ながらに話をしてくれました。それを話し終えた後、こちらからこれからの生活について関わる人間に少し任せてみないか、という提案をすると、薬カレンダーへのセットや買い物などについては医療、介護関係者に任せてくれるようになりました。
このケースでは患者さんが思いを表出できたことで自分たち自身がその患者さんにとっての支えの一つになれたのではないか、そして患者さん自身の役割の一つを支えとなる存在(医療、介護関係者)へゆだねることができたのではないかと思います。ただ、日々の業務として予定で訪問しなければならない件数と予定や、解決をしなければならない問題などに追われる事も多く、ゆっくりと患者さんの話に耳を傾けながら、という場面は限られてしまっているのも現実でしょうか。
しかし、解決のできない苦しみに直面している患者様へ対応するとき、無理に何かしらの解答を出そうとせず、「聞くこと」「理解しようとすること」という行為で苦しんでいる人への支えになれる可能性があることを知れたことで、患者さんとの関わりについて自分自身に気持ちの余裕が生まれた様に感じます。
一朝一夕でできることではないという事も感じていますが、ELC講習で学んだことを実践しながら、これからも様々な人とのかかわりの中で誰かの支えになれるように取り組んでいきたいと思います。
村川和美さま、看護師
新潟市地域包括支援センター石山(新潟県)
私がELC 援助者養成基礎講座に参加させて頂いたきっかけは、日々学んで確実に主任介護支援専門員のバージョンアップしている大先輩からの勧めがあったからでした。
参加までの期間に母がガンの再発で、12日後に夫の父が12月31日に他界しました。母も義父も亡くなる2週間意識がなく痛みによる苦痛なく病院での最期でした。子として嫁として穏やかに死を迎える事ができたのか自問自答する日々でした。また、介護予防の利用者様から早く夫の元へ逝きたいと悩まれているのに死に触れられたくなくそんな事言わないでと死に関する話を苦手だからと避けていたように思います。
講座の中で、「苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人(理解してくれる人)がいるとうれしい」事や援助的コミュニケーションとして、反復、沈黙、問いかけをロールプレイを通して学ばせて頂きました。
日々業務の中で生かせるように意識的に実践しています。ガン末期の利用者から率直な思いを傾聴するように努めました。私と利用者様のやり取りを聞いていた夫が、妻の不安定な気持ちを察知し仕事には、行かないで妻と一緒に最期を迎える覚悟が出来たようでした。
援助者自身が気づくアンテナと利用者の周りの家族にも気づかせるアンテナの感度を効果的に上げていく支援の必要性も体験させて頂いた事に感謝です。
感性を磨くと同時に支援者としての学びを深めていきたいと思っています。
梶原崇志さま、会社経営
有限会社オフィスエイド(大阪府)
私には、神経難病を長期間患っていた祖母がおりました。その関係で、過去、神経難病患者様が多い在宅医療機関で相談員として勤務しておりました。勤務経験において、答えられない苦しみを抱えた方と多くお会いしたことが、講座参加の動機です。
養成講座では、答えられない苦しみを抱えた方とどのようなコミュニケーションをとるべきか、具体的なHowToを知ることが出来ました。このコミュニケーション手法は、「老病死」に悩む方に有効であることは言うまでもありませんが、その他、あらゆる苦しみを抱えた方に有効なコミュニケーションだと思います。例えば、仕事で悩む部下への対応など、考え方はあらゆる場面で有効だと感じました。
受講後、受講で得られたコミュニケーション手法を医師・看護師・介護職・事務職に共有しました。また、何らかの悩みを抱えた部下(例えば、悩みを抱えて仕事を辞めたいと考えている社員)と接するとき、部下の話を傾聴し、関係の質を上げてから、視野を広げるような発信を図りました。その結果、前向きになれたということで、勤務が継続されるようになりました。このように、病気の方だけではなく、様々な方に有効なコミュニケーションだと思います。
受講検討中の方へ。苦しみを抱えた方をどう支えるのかについて、具体的なケースから学ぶことが出来ます。
そこで得られた学びは、人生で関わるあらゆる方に対し、有効なものですので、あらゆる方にお勧めしたい内容です。
樫木泰子さま、カウンセラー
一般社団法人終活マイライフ(北海道)
小澤竹俊先生のご著書から先生の実践されている訪問医療のあり方に魅かれて、何の専門家でもない私にもできることはあるのか?自問自答の中、昨年11/9札幌で小澤先生の講演を聴講させて頂き、一層学びの気持ちが深まりました。1月東京三田で開催された支援者初級講座には、医療・介護の専門職の方々が多く参加されて場違いなところへ来てしまったかと気後れしたことを思い出しています。現場経験のない私にはグループワークもロールプレイもきついものでしたが、それでも私ができることがあるかも知れないと沢山の気づきと学びの二日間に感謝致します。
昨年私の友人の弟さん(50歳)の死に直面し、あまりにもあっけなくおひとり様の悲哀とご家族の献身的看護の中、高齢のお母様の悲しみ・悲嘆(グリーフ)長男の疎外感、姉の責任感、家族の立場での受け止め方の違いなど目の当たりに致しました。いのちの期限がある中で、穏やかに過ごせる環境を整える準備にはカウンセラー・傾聴士として多少のアドバイスで役に立てたのかと思っています。視床神経膠芽腫・水頭症で入院手術~在宅訪問診療と訪問看護介護保険を併用してホスピス緩和ケア病棟の医師・看護師の手厚い対応、本人の強い希望で自宅での生活を急遽バリアフリーに改装するに始まり、訪問医療・ヘルパー・家政婦・実姉の協力の中サポート24時間体制のスケジュールプランが組まれ、本当に医療者の献身と介護関係者の温かな対処の仕方に頭の下がる思いが致しました。
昨年秋より、介護施設・デイサービス施設やホスピス病棟などでアロマタッチハンドマッサージなどのボランティアとお話を聴くため訪問しています。
これからの時代、国家施策も在宅傾向に進んでいる中、与えられたいのちの期限まで一人一人穏やかで幸せを感じて生きられる社会になることを願い、小さな力でも私にできること続けて行きたいと思っております。
疋田智之さま、リハビリテーション職
総合病院国保旭中央病院(千葉県)
私は、総合病院の理学療法士および緩和ケアチームスタッフとして、がんリハビリテーションを中心に携わっています。その中でも、緩和から終末期にかけた患者様を対応することも多くあり、人生の最終段階において、理学療法士としてなにができるかを考えていました。その人らしく生き抜くことを支援したいと考えリハビリに取り組んでいますが、アプローチによっては苦痛を与えてしまいかねないこともあるため、トータルペインの評価にはいつも悩むことばかりでした。そのとき、エンドオブライフ・ケアを知り、スピリチュアルペインをより深く理解することで、苦痛を安心にかえるようなアプローチができるのではないかと考え、受講を志望しました。
養成講座では、相手にとって「私のことを理解してくれている人」や「支え」の大切さについて学びました。自身の心の中の想いを引き出すためには、まず相手から信頼されなければならないこと、そのために理解してくれていると思ってもらうことが重要であることを学びました。それにより、相手の「支え」に気づくようになり、支援できることがさらに多くみつけることができると学びました。
臨床の場でも、患者様との会話で反復や沈黙、問いかけを意識して関わると、「よく話を聴いてくれてありがとう」と言われることが増え、自然と患者様の方から自身の支えを意識した想いを伝えてくれるようになりました。その支えを多職種で共有し、役割分担をすることで、私自身もその支えを強めるようなリハビリテーションを実践でき、これまでより充実したアプローチを実感しています。理解が難しいとされるスピリチュアルペインをより詳細に評価でき、確信をもってアプローチできたことで、私自身の無力感も軽減されたようにも感じています。
人生の最終段階にリハビリテーション職がどこまで関わるのか悩まれる方も多いと思いますが、リハビリテーションにしか強めることができない支えも存在すると思います。少しでも同じような想いをお持ちの方には、ぜひ受講をしていただきたいと思います。
小澤先生、エンドオブライフ・ケア協会スタッフの皆様に感謝いたします。とても有意義な時間をありがとうございました。
佐藤絵梨さま、医師
大泉生協病院(東京都)
私が2019年1月東京開催の養成講座に参加した目的は、医師と他の医療職および介護職との間にある終末期に対する”溝”について学ぶということでした。呼吸器科医として働き、数多くの患者さんの死に向き合ってきました。看護師もケアマネージャーも介護師もみな、患者さんの終末期をサポートしたいと思いながら働いています。しかし方向性を決定する際に、そこにはなにか埋まらない溝があると感じていました。
ワークショップに参加して理解した”溝”の正体は、言語化ということでした。多職種で同じ方向をみて患者さんをサポートするときには、みんなが理解できる”言葉”で患者さんの苦しみを表現し共有するということが大変重要であるという新たな気づきがありました。終末期に関わる看護師、介護師がどこに不安を覚え、どんな方法で指導するとその不安を解消していくことができるとかという、非常に実践的な方法がワークショップには詰め込まれていました。自分自身もロールプレイングで患者としての気持ちを表現したり、繰り返しや沈黙の間を経験することで、視点が広がったと思います。実際に患者に接する際の会話に、学んだ内容を反映させようと意識するようになりました。
今は練馬地区でエンドオブライフ・ケアの概念を伝えていける仲間作りをしたいと考えています。地域で抱える患者さん・その家族たちを、地域の医療介護職が支える。今後も多くの仲間とつながり、切磋琢磨していけたらと思います。
東京開催では毎回、遠方からのご参加者も多く、開催規模も回を重ねるごとに大きくなっています。今回もサポーターのみなさんを含めると100名を超える大規模開催となりました。
協会としては2日間の講座を提供して終わりではなく、受講した方がさらに理解を深め、実践し、振り返り、自らと周囲を進化させていく、そんなお手伝いができたらと願っております。
次回は、2月10日(土)-11日(日)、福岡開催をレポートいたします。
© End-of-Life Care Association of Japan