2020年4月18日、当初エンドオブライフ・ケア協会設立5周年のシンポジウムを東京大井町にて開催予定でしたが、コロナウイルス感染症拡大の影響により一度は中止。その後、目的と内容を急遽変更し、オンラインで開催する運びとなりました。
当日は全国から250名が接続し、カメラを通して顔を合わせながら、活発な交流が行われました。小澤竹俊、小野沢滋、長尾和宏、森本真之助、千田恵子(発表順、敬称略)からそれぞれ話題提供のあと、参加者は6名前後の小グループに分かれ、新型コロナウイルスの感染拡大による現在の危機的状況(新型コロナ・ショック)において、私たち一人ひとりにできることについて、話し合いを行いました。
短期間での開催準備となりましたが、多くの皆さまにご協力や応援をいただきましたことを、心より御礼申し上げます。以下、当日の様子をレポートいたします。
開催にあたって(小澤)
エンドオブライフ・ケア協会は、看取りの現場から学んだ「解決が困難な苦しみを抱えていてもなお、穏やかでいるためにできること」を、医療に携わる人だけでなく、誰もがわかる言葉で社会に広げ、支え合うコミュニティを作る活動を続けてきた。
現在、新型コロナ・ショックにより、病で苦しむ人や、それを支える医療・介護の専門家だけでなく、学校に行きたくても行けない子どもたち、働きたくても働けない人たちなど、あらゆる人々が様々な解決困難な苦しみを抱えている。そうした中で、私たちに何ができるかを一緒に考えていきたい。
在宅医療の現場で今困っていること(小野沢)
新型コロナウイルスは、初めは遠い武漢のこととして、それほど深刻に受け止めていなかった。しかし、2月に日本でダイヤモンド・プリンセスが問題となった頃から、もし日本でこのまま何も対策をしなかったらどのくらい感染が広がるかを自分で計算するようになり、危機感を抱くようになった。
ところが3月15日の専門家委員会の会見では「社会機能への影響を最小限にしながら感染拡大を抑える」「クラスター対策が奏功している」と言われており、翌週の3連休では街中にたくさんの人出が見られた。本当に社会を動かしながら感染拡大を抑えることができるのだろうか、と疑問に思った。
そのままクラスター対策だけを行っていた場合どうなるかを計算してみたところ、160日後に21万人の新規感染者、死者数30万人という結果になった。現在はこの計算よりも増加のスピードは緩やかではあるものの、新型コロナの流行は長引くと考えられ、年単位での取り組みが必要と考えられる。対策が1日遅れたら数千人が死ぬ、そして、自分が感染者であると思って行動するしかない。
現在私が在宅医療において困っていることは、発熱者への対応である。発熱があり感染疑いとした時点で、ヘルパーが撤退してしまう。ヘルパーをどう守るか、は課題である。PPEには限りがあるし、感染を防ぐ着脱方法を実践するためには、2人体制で訪問しなければならない。
医師が発熱した人のもとに無防備で訪問診療した場合、発熱した人の5%が感染者であるとして計算すると、100回訪問したら35%が感染するという計算になる。今のところは、発熱した人のところには、防御して訪問するしかないと考えられる。
中国の論文では、ウイルスの量は症状が出る2日前から翌日が多く、症状が出た後急速に減り、1週間以降では感染させるリスクは低い、というデータがあった。これが事実だとすれば、コロナ感染者の在宅看取りは可能だともいえる。
しかし、無症状の期間に感染させるリスクが高いことから、その間の感染予防は困難だと考えられる。そのため、社会的にも、まずは感染防御を最優先とする必要がある。経済活動も維持しながら感染を抑制するのは難しい。二兎を追うものは一兎も得ず、である。一人ひとりが自覚し、感染を防いでいく必要がある。
コロナ肺炎の早期発見・早期介入とクラスター対策(長尾)
私は従来の在宅医療、外来も続けながら、新型コロナ相談専用の「コロナ携帯」を持ち、早期介入の取り組みを行っている。感染の疑いのある人は電話で問診して、可能性が高いと判断した人は、人と接触しないよう裏口から誘導してCT撮影を行っている。
一方でPCR検査は制約が大きく、保健所に連絡しても入院まで1週間くらいかかる。新型コロナは重篤化し死亡することを防ぐのが重要と考え、CTにより新型コロナ肺炎の早期発見・早期介入に努めている。
感染が疑われる人には携帯で問診し、接触しないようにしている。唯一放射線技師が接触するが、N95マスクを着用し、検査は昼休みに行って時間を空けられるようにしている。
新型コロナ感染の2割は院内感染、2割は施設感染であり、病院や施設での感染を防ぐことが重要である。特に重要なのが換気。私は、1日1回は窓を開けて換気した方がよいと伝えているが、「外からウイルスが入ってくる」と懸念し閉め切っている施設もある。
今は施設からターミナルの人が自宅に帰ってきている。新型コロナでも「人生会議」が重要である。PCRを行って入院するか、人工呼吸器をつけるか、などを確認する必要がある。携帯電話やZOOMなどのツールを活用し、工夫して対応していくことが大切と考える。
現在私に新型コロナに関する相談をしてくる方は、医師、看護師、警察官などが多い。自分が感染を広げているのではないか……と悩んで、誰にも言えないようである。現在、感染者の名前の報道や、院内感染した病院の謝罪が見られるが、インフルエンザではそんなことはしていない。インフォデミック(情報の急激な拡散)の抑制も必要と考える。
新型コロナでないという証明が欲しい、と言ってくる人もいるが、無症状陽性者がいたり、発症し回復したあとも1ヶ月以上は便にウイルスが検出されるという状況で「感染していない」と言い切れることなどない。新型コロナは、「いつかは感染するもの」と思っている。施設でたとえ2、3人の感染者が出ても、クラスターとならないよう対策をとることが重要である。
三重県紀宝町新型コロナ対策防災タイムラインの紹介(森本)
三重県紀宝町では台風などの自然災害対策として「防災タイムライン」を作成しており、新型コロナ対策においても、これをもとにしたタイムラインを作成している。
災害対策の基本は、起こることを想定し、訓練し、実践して検証を重ねること。しかしコロナの場合は、起こることの想定がしにくく、訓練をしている時間もない。検査を受けて陽性になった人がいた場合に入院・治療を行うほか、陰性であった人に対しても、その後発症する可能性を考えて見守りを行ったり、濃厚接触者が介護者だった場合は代わりの介護者の手配するなど、やるべきことは多岐に渡る。そこで、どの段階で、どのような行動を、誰がとるのかを時系列に分け、タイムラインとして整理している。
ただし、新型コロナは、台風のように徐々に近づいてくるとは限らず、突然町内で蔓延する可能性もある。また、台風一過のように、乗り切って終わり、とはいかない。そのため、通常業務と新規発生業務のバランスを考えていく必要がある。医療機関では、新型コロナばかりでなく、検診やがん診療にも対応していかなければならない。BCP(事業が継続するための計画)の考え方が必要である。
そのため、救急医療やコロナウイルスに対応する医療機関だけを強化するのではなく、偏りのないよう、地域全体で連携していくことが重要である。それは医療・福祉、行政に限らず、住民にも参加してもらう必要があり、自治会や自主防災組織も活用していくべきである。今が縦割社会を脱却し、進化を目指す時と考える。
また、防災タイムラインは、みんなで戦う体制づくりである。戦いには支えが必要である。そこで、ELCで学んだ支えの大切さを、タイムラインの中に盛り込んでいきたいと考えている。
「4Cチャレンジ」の提案(千田)
新型コロナウイルス感染の影響により、解決が困難な苦しみを抱えた多くの人たちが、どうしたら穏やかでいられるか。今、私たち一人ひとりに何ができるかを一緒に考えていくために「#コロナ4Cチャレンジ」を提案したい。それにあたって、まず津野さんにお話を伺う。
津野采子さん(大阪府、介護福祉士)のエピソード 私は訪問介護の事業所の責任者をしている。私たちの地域でもショートステイやデイサービスが縮小・閉鎖される中、訪問介護ヘルパーがますます必要になっている。私は事業所を閉めて、ヘルパーが直接現場に行くようにして、スタッフの誰かに感染者が出たとしても他の誰かが現場に行けるようにした。 これにより、今までのように、ヘルパーは事務所に来て、悩みなどを話してもらうことができなくなった。Zoomを使ったりもしているが、使えない人もいるため電話で話す人もいる。しかし電話は顔が見えないので、言葉尻がうまく伝わらないこともある。また、業務を続けていく上でも、ヘルパーの家族の職場で感染者が出た場合、訪問に行って良いのかどうかや、マスク・ガウンなどの不足をどうするか、など日々悩んでいる。 そんな中、自分自身のストレス解消として行っていた手芸で、マスクを縫うようになった。できたマスクを知人に配ったところ、喜んでもらえたり、SNSに写真をアップしてくれたり、自分も作ったからと送ってくれたり、それが自身の喜びにもつながっていった。 |
津野さんが最初、自身のために行っていたことが、誰かの笑顔になり、広がっていったことは素晴らしいと思う。今は、「誰かの力になりたい、でも、なれない」というもどかしさを抱えた人が多いと思う。そんななかでも、手紙を書いたり、オンライン飲み会をしたり、この機会に家族と日頃話せない大事なことを話したりなど、小さな行動を起こし、その取り組みをみんなが見えるようにして、参考にしたり、応援したりすることができないだろうかと考えた。
エンドオブライフ・ケア協会では、こうした取り組みを「#コロナ4Cチャレンジ」と名付けて、Facebookで紹介している。そこで、参加者のみなさんからも、以下のような形でアイデアをいただきたい。
4C(コロナ対策コミュニティケア)チャレンジについて考えてもらいたいこと ①今、(このコロナウイルス感染の影響下で)あなた、または周りの人は、どんなことに困っていますか? ②その人が笑顔になるために、あなたはどんなことができますか? 1週間以内、24時間以内にできることは何ですか? ③4Cを広げるために、あなたならどんなことができますか? |
#コロナ4Cチャレンジの取り組みは、以下ページにて随時共有していく。
https://www.facebook.com/groups/4C.CoronaCommunityCareChallenge/
また、毎月第三火曜日に開催していくイベントで、取り組みを紹介していく予定。初回は4月21日に開催(https://4cteams1.peatix.com/)。
終わりに(小澤)
新型コロナウイルス感染拡大の過程で、「誰かの力になりたい」と思う人が増えていくと感じている。そうした人たちが、エンドオブライフ・ケア協会に限らず、つながっていってほしいと思う。今は医療・介護に目が向きがちだが、生活のなかで苦しんでいる人はたくさんいるはずであり、地域での何気なく温かい声がけが大切になってくる。
困難な状況の中、100点満点の行動は取れないかもしれないが、このつながりがあることで、うまくいかない自分も「これでよい」と認めることができ、困難と向き合う力になるのではないだろうか。今回の参加者の皆さんのように、普段は離れていてもつながっている仲間が、見えない伴奏者となってくれると思う。
© End-of-Life Care Association of Japan