2026年4月18日(土)、エンドオブライフ・ケア協会設立11周年シンポジウムを横浜会場とオンラインのハイブリット形式で開催しました。
横浜会場、オンラインともに100名を超えるみなさまにご参加いただきました。
今回は、代表理事・小澤竹俊が直前に入院を要することとなり、横浜会場へ伺うことができませんでしたが、第1部冒頭は録画で、第2部冒頭には病室からオンラインでご挨拶をさせていただきました。あたたかく受け止めてくださった皆さまに、改めて感謝申し上げます。
当日は、アドバイザー・本間正人先生による総合司会のもと、第1部では理事・久保田千代美によるワークショップ、第2部では認知症とともに生きる「当事者」をめぐる対話、第3部では子ども・若者にとっての「居場所」をテーマに、多様な実践と声が交わされました。
一日を通して、「声にならない声」にどう気づき、どう向き合うかを、参加者の皆さまとともに考える時間となりました。

苦しみは、いつもはっきりと言葉になるとは限りません。
自分でも苦しみに気づいていないこと、気づいていても言葉にできないこと、あるいは、話してもよいと思える相手がそばにいないことがあります。
そのような「声にならない苦しみ」に、私たちはどのように気づき、どのように関わることができるのか。
年代も職種も居住地も多様な方々とともに考える1日となりました。
第1部では、「ユニバーサル・ホスピスマインドをすべての人生のそばに」をテーマに、理事・久保田千代美がワークショップを進行しました。


ユニバーサル・ホスピスマインドとは、限られたいのちと関わるホスピスの現場で培われてきた、解決が難しい苦しみとの関わりを、誰もが誰にでも実践できる形にしたものです。

苦しみとは、希望と現実の開き。
解決できる苦しみもあれば、解決が難しい苦しみもあります。
解決が難しい苦しみを抱えた人を前にして大切になるのは、本人から見て、「この人には話してもいい」、「わかってくれる」人として関わることです。
いくつかの問いをもとに、参加者同士の対話を通して、聴くこと、評価せずに受けとめることの意味を、改めて体験する時間となりました。




お昼からはオンラインの参加者もご一緒に、認知症とともに生きる社会について考えました。
認知症当事者であり、認知症当事者ネットワークみやぎの丹野智文さんからは、事前収録のメッセージを通じて、進行しても「最期までよりよく生きる」ために大切なことが語られました。
認知症の進行に伴い、できることが少しずつ変わっていくなかで、これまでは「工夫する」といえば道具を使うことだと思っていたが、それだけではなく、人との関係の中にこそ支えがあるという気づきが語られました。
具体的には、自分が大切にしていることや、どのように過ごしたいかをあらかじめ周囲に伝えておくこと、そして日常の中で関わり合える仲間を地元につくっておくことが、将来への備えにもつながるというお話が印象的でした。
また、学生に向けたメッセージもいただきました。失敗や試行錯誤の経験が、やがて自信となり、自分らしい生き方へとつながっていくことが語られ、次の世代へのメッセージとして深く受けとめられました。

続いて、宮城・仙台で本人視点の支援に取り組む、いずみの杜診療所 川井丈弘さんのお話です。認知症当事者である丹生さんらのピアサポートの活動に伴走してこられたご経験をもとに、診断直後から当事者同士が出会う取り組みや、地域の中で役割を持ち活動する実践が紹介されました。
そこでは、支援のあり方そのものが問い直されていました。
「何かをしてあげる」という関わりではなく、
「ともにある」「ともに考える」関係を大切にすること。
支援者は前に出て導く存在ではなく、必要なときにそばにいて、信じて待つ「黒子」のような役割を担います。
また、「その人に何ができるか」ではなく、
「その人と何ができるか」を問い続けることの大切さも共有されました。

さらに、理事・濵田努からは、新たなプログラム「ともに認知症と生きる力を育てる~ともにん~」の現在地について紹介しました。
「ともにん」は、認知症に関する知識や対応スキルを学ぶことにとどまらず、解決が難しい苦しみの中でも、人がどのように穏やかさを見出していくのかを、立場を超えてともに考えるプログラムです。
そのシンボルマークにも、支える側と支えられる側が固定されるのではなく、誰もがその両方になりうる関係や笑顔が描かれています。

こうした実践から見えてくるのは、支援とは個別の行為ではなく、関係そのもののあり方であるということです。

第3部では、「子ども・若者にとっての『居場所』とは」をテーマに、多様な実践が共有されました。
冒頭は、武蔵野大学社会福祉学科4年生 笠原優華さん。ご自身が中学時代、同級生からのいじめを、そばにいた教員に見て見ぬふりをされたり便乗されていたこと。そして高校時代、真逆の環境下で陥ったPTSD。大学受験のさなか自身をふりかえることや、カナダでのワーキングホリデーなど、人との関わりによって少しずつ心身が回復していくプロセスや、だからこそ願うこれからのことが語られました。

認定NPO法人 第3の家族の奥村晴香さんからは、悩みを抱え込む少年少女のための「裏の居場所」gedokunなどの取り組みが紹介されました。支援の現場では、「助けて」と言葉にできた人が支援につながることが多い一方で、そもそもその言葉を発することができない子どもたちが一定数存在します。そうした子どもたちを前提に、あえて「支援」という枠組みを前面に出さず、まずは安心して存在できる場をつくることを大切にされています。関係ができる前に介入するのではなく、まずは「一人にさせない」こと。その関係の中で、子どもたちが自分のタイミングで言葉を見つけていくプロセスが大切にされていました。

北海道 中頓別町で新設されたばかりの、幼小中一貫 義務教育学校 中頓別学園 教頭 室田ひろみさんからは、学校そのものを「居場所だらけ」にしていく挑戦が共有されました。子どもたち一人ひとりの声に耳を傾けながら、学校という枠を越えて、地域や社会教育とつながる場をつくっていく取り組みです。出来上がった「居場所」を大人が用意するのではなく、子ども自身が関わりながら日常の中に複数の安心できる関係や場をともに作っていくことで、どの子どもにとっても居場所がある状態を目指されています。

また、琉球大学の学生サークル「ヨリドコロ」からは、学生たちがユニバーサル・ホスピスマインドを学び、自分自身の変化を経験しながら、次は誰かに届けようとしている姿が語られました。
現役の琉大4年生 沈寅翊さんからは、ユニバーサル・ホスピスマインドの学びを通して、自分自身の見方や人との関わり方が変化していったこと、そしてその変化を仲間とともに共有しながら活動を続けていることやこれからの夢が紹介されました。

一方で、ヨリドコロの立ち上げメンバーの一人であり、現在は卒業して医療の現場に立つ、南生協病院 研修医の伊良波梨奈さんからは、学生時代の経験がそのまま臨床の場での関わり方につながっていることが語られました。目の前の患者さんの言葉だけでなく、その背景にある思いや、言葉になっていない苦しみに目を向ける姿勢が、日々の実践の中で生きていることが印象的でした。
お二人の語りを通して、学びが個人の中で変化を生み、それが次の現場へとつながっていく様子が共有されました。

また、慈恵医大の学生から始まった関東の学生ネットワーク「U-harmony」の紹介もありました。

さらに、名古屋駅ナカのサードプレイス「MACHIKOYA」での実践について、藤田亜紀子さんから発表がありました。藤田さんは、息子の中学1年生 陽斗さんとともに「折れない心を育てる いのちの授業」の講師認定に挑戦されました。陽斗さんはこの3月にMACHIKOYAで、子どもや大人を相手に講師デビューを果たしました。
陽斗さんは動画でコメントをくださいました。家族以外にも相談できる人や応援してくれる人が増えたことが、自分自身の支えにもなっている、という言葉からは、伝える側に立つことそのものが、本人にとっての居場所や支えにもなっていることが感じられました。

北里大学の千葉 宏毅先生からは、内閣府孤独・孤立対策モデル事業の一環として実施した調査結果についてご報告いただきました。
子どもたちの「支え」は、家族や友人だけでなく、ペット、音楽、本、YouTube、推し、食べること、寝ることなど、多様であることが見えてきました。大人が思う「支え」と、子どもたちが実際に感じている「支え」は必ずしも同じではありません。だからこそ、こちらの価値観で決めつけず、本人にとっての支えを丁寧に聴いていくことの大切さが確認されました。

最後に、アドバイザー・副島賢和先生から、登壇者の語りを受けて総括がありました。
子どもたちの言葉の奥にある「本当はね」という声にどう気づくか。
表に出ている言葉や行動の背後には、まだ言葉になっていない思いや願いがあること。
その言葉をすぐに解釈したり評価したりするのではなく、まずはそのまま受けとめ、関係の中で待つことの大切さが語られました。
また、「何かしてあげることができるかどうか」ではなく、その子のそばにいられているかどうかという問いが、関わる側に投げかけられました。
すぐにできることが見つからない場面もある中で、それでも関わり続けること。その積み重ねの中でこそ、「本当はね」という声が少しずつ立ち上がってくるのではないかというメッセージが届けられました。

居場所とは、単に「いる場所」ではなく、自分の気持ちをそのまま置くことができる関係の中にあるものです。
学生や実践者の語りからは、「自分はこれでいい」と思える体験が、「自分にも何かできるかもしれない」という感覚につながり、やがて誰かを支える側へと変化していくプロセスが見えてきました。

この1年、当協会では、認知症とともに生きる力を育てる「ともにん」の立ち上げ、内閣府孤独・孤立対策モデル事業、子ども・若者の居場所との連携、学生による実践、イギリス人の認定講師誕生、国際誌への論文掲載など、さまざまな取り組みが進みました。

そのすべてに共通しているのは、
解決が難しい苦しみがあっても、人は「わかってもらえた」と感じることで、自分の支えに気づき、穏やかさを取り戻すことがあるという、ユニバーサル・ホスピスマインドの考え方です。
そして、支えに気づいた人が、今度は誰かの支えになろうとする。
その小さな循環が、学校、地域、医療・福祉、家庭、職場へと広がっていくことを、私たちは目指しています。
11周年の節目は、これまでをふり返る場であると同時に、これからの社会実装の現在地を確かめ、次へ進むための場でもあったように思います。
11周年のテーマである「声にならない声を聴く」は、特別な誰かだけに向けられたものではありません。
子どもにも、若者にも、認知症とともに生きる人にも、家族にも、支援者にも、そして私たち自身にも、まだ言葉になっていない思いがあります。
その声に気づき、ともにある関係をつくること。
それが、これからの社会に必要な小さくも確かな一歩なのだと感じる1日となりました。
エンドオブライフ・ケア協会は、これからも、ユニバーサル・ホスピスマインドをもとに、誰もが「生きてきてよかった」と思える社会を目指し、学びと実践の場を広げてまいります。
ご参加くださった皆さま、ご協力くださった皆さま、この投稿で私たちの活動を知ってくださった皆さま、ありがとうございました。来年またお会いできれば幸いです。
※次回ELC設立12周年シンポジウムは、2027年4月17日(土)横浜にて開催を予定しております。
※写真はこちらからもご覧いただけます。


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