コラム131:「わかってくれる人でいられる」ということ

  • 支える人の支え
  • 穏やかな最期
  • わかってくれる人がいるとうれしい
  • 解決できない苦しみ

練馬光が丘病院 総合救急診療科 内科専門医

藤井 洋一さま

(ELC第159回生)

 私は都内の総合病院の総合診療科で勤務しています。救急診療や訪問診療も含めて、実に多様な症例を経験しますが、良くなる患者さんばかりではありません。また病気が良くなったとしても、今後の生活や、人生について不安を話してくださる方にたくさん出会います。 病気のことを考えて、患者さんの生活のことを考えて、それでも解決しないモヤモヤを抱えながら、自分としてもどうして良いか分からず、また次々と運ばれてくる患者さんの対応で現場は疲れてしまう。 そのような状況の中で、ある学会の講演で小澤先生のお話を聞きました。


 「苦しんでいる人を分かってあげることはできない。でも、苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいるといい」 


 もの凄く腑に落ちて、自分が悩んでいたことを肯定してくれた様で、嬉しくなったことを覚えています。

 

 援助者養成基礎講座に参加し、実際に実践してみると、相手の苦しみをキャッチするには確かに時間がかかりますが、その後の診療がとてもスムーズになります。患者さんにも「少し頼ってみようか」と思っていただけるような気がしています。

 

 もちろんその前提として、「解決できる苦しみは解決する」というスタンスのもと、医師として医療者としてやるべきことはきっちりやるということも大切で、身が引き締まる思いです。

 

 訪問診療でとても素敵な患者さんに出会いました。高齢で、脳梗塞後でベッド上生活の方ですが、はっきり自分の意見を言う性格の方でした。誤嚥性肺炎を繰り返し残り少ない時間に思い出をたくさん作ろうと、ご家族が頑張り、思い出深い浅草に連れて行ったり、免許をとったばかりのお孫さんの車でドライブに行ったり、本人もとても充実していた様に思いました。 そんな彼女がぼそっと、「先生は歩いてどこにでも行けるからいいね」といいました。

 

 今までなら、「浅草に行けたのだから幸せですよ」と、遮って終わっていたかもしれません。 反復し、待っていると、本当はもっと人並みに歩いて遠くに行ったり、景色を見たりしたいと思ったこと、一方で一番行きたいところには行くことができ、家族には感謝していることを教えてくれました。 私は、「食べ物より写真の方がずっと残るから」というリクエストをもらい、夏休みに行った沖縄の写真をプレゼントしました。彼女はとても喜んでくれ、ベッド脇に写真を飾ってくれました。最期まで自分らしさを貫いた彼女の、「穏やかな時間」に、少しは携われたのではないかと思います。


 自分が誰かにとっての、「わかってくれる人」でいられる、「そばにいるだけでいいのだ」と思えることは、医療者の自己効力感にも繋がるはずです。ユニバーサル・ホスピスマインドを自分なりに実践しながら、この考えを広めていきたいと思います。

#ユニバーサルホスピスマインド

#エンドオブライフ・ケア

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