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コラム65:「折れない心を育てる いのちの授業」の源流から


コラム65:「折れない心を育てる いのちの授業」の源流から
浄土真宗本願寺派 走井山善西寺 住職 矢田俊量さま
(ELC第6回生)

 ここは三重県のとある小学校。創立百二十周年記念の講演会。会場の体育館には、幼稚園児、小学生児童、教職員、保護者があつまり、熱心に講演に聞き入っている。講題は「ホスピスから学ぶいのちの授業」。講師は横浜甦生病院緩和ケア医長・小澤竹俊先生。皆様にはいわずとしれた、現、ELC代表。今から16年前の秋のことである。

 当時、この小学校でPTA会長を務めていた私は、ある学会で小澤先生の「ホスピスから学ぶいのちの授業」の講演を聴く機会に恵まれた。その頃、教科に「総合的な学習の時間」が創設され、「いのちの授業」についても全国でさまざまな試みが行われ始めた頃であった。先生の講演はとてもわかりやすく、子どもたちにも届くはずと感じ、「是非、母校のこどもたちにも聞かせたい」と先生に懇願し、快くお引き受けていただいての講演会であった。

 ただ、小学生対象の講演のテーマに「死」を扱うことに、当時はまだ不安があった。幼稚園児・低学年児童に伝わるのか? 保護者・教職員の反応は? など、いろんな不安を抱えながらも、先進的な取り組みにすべく、慎重に役員と議論し企画をすすめた。というのも、当時、児童が犯罪に巻き込まれる事件が近隣で頻発し、PTAとしても子どもたちの命をどう守るかが大きな課題で、一斉メール配信システムの導入や、「いのちの大切さ」をいかに伝えるかを模索している時期でもあった。

 さて、当日、いざ講演が始まると、不安は杞憂に終わった。小澤先生の優しい語り口とともに、流れるドラマ・アニメのワンシーンや、なつかしの歌謡曲に子どもたちの歓声が起き、臨床での苦悩を描くリアルな描写には、子ども大人のへだてなく目頭をぬぐう光景も見受けられた。ホスピスという臨床の現場での「いのちのものがたり」に一同、思いをめぐらすひとときだった。「いのち」の物語は臨床の「死」のリアリティを通してこそ、子どもたちにも伝わるのだ・・・そんな手応えを感じる機会だった。

 その後、小澤先生は緩和ケア領域における教育の分野にも尽力しつつ、めぐみ在宅クリニックを開設、在宅医療に取り組み始められ、エンドオブライフ・ケア協会の活動をはじめられた。その後の先生のご活躍と協会の発展は皆様のよくご存知のとおりである。

 それが今、本協会の「折れない心を育てる いのちの授業」(OK)プロジェクトに発展し、今や、全国に50名以上の認定講師の方々が日々、自分の苦しみに向き合い、目の前で苦しんでいる人に関わることのできる人材育成に奔走されている。

 時代は平成から令和に変わり、2025年問題が目前に迫りくる今、物質的な豊かさ享受しながらも、急速に変化し続ける社会情勢に、常に息苦しさ、不安感を覚え、また世に蔓延する不条理に対する怒り、悲しみの感情に翻弄されている人が多いのではないだろうか。当然、このような状況は大人の世界だけにとどまらず、子どもたちにも深い影を落とす。不登校、ひきこもり、いじめ、虐待、自死・・・子どもたちを囲む環境は日増しに厳しくなっていると感じる。しかし、子どもたちはその「苦」から逃げ出す場所や、助けを求める術を持たない。なぜなら、「苦」への対処方法を学ぶ機会がないからである。ならばその機会を作ること、OKプロジェクトはそのために生まれた。この世にはいかに多くの苦しみが存在するかに気づき、一方で、苦しみがありながらも人は穏やかになれる・・・その可能性について子どものうちに気づけたらと願う。その可能性とは「わかってくれる人の存在」、そんな人が子どもたちの周りに居てくれたらいい。そしてOKプロジェクトでは、その存在に自分もなれると教える。その具体的なメッセージは子どもたちに誰かの力になる勇気を与えることであろう。本プロジェクトの今後の発展に期待する。

 私もこの16年前のご縁に育てられ、ELCに繋がった。2025年まで、あと5年。スタートの合図はもうすぐ、そしてそこからマラソンがはじまる。しっかりコースをシュミレーションして、仲間とともにトレーニング積んでいきたいと思っている。


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