コラム8: ~ 思い上がりからの気づき ・・・・・・本人の思いを尊重するとはどういうことか ~ 

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コラム8 ~ 思い上がりからの気づき ・・・・・・本人の思いを尊重するとはどういうことか ~ 

社会福祉法人柏原市社会福祉協議会 福祉推進課地域福祉係 課長補佐
神崎トモ子さま(JSP3期生、認定エンドオブライフ・ケア援助士)

 

相手の思いを汲み取り、尊重するとはどういうことか・・・・

長年の相談援助経験があるにもかかわらず、父親のガン告知を受けた友人の思いに寄り添っていなかった、私の暗闇と夜明けのお話です。

 

.家族の思いとは

「父親がガンらしい。どうすればいい?」

大切な友人から思いがけない相談を受けた。


「お父さんはどうしたいと言っているの?本人の思いを尊重してあげてはどうかな」

私は迷わず、そう答えた。看護や介護の場面で経験した告知後の相談援助、何よりも本人の意向を導きだし、その思いに答える支援・・・。私は自信を持って、さも得意気にアドバイザーの気分で答えていたように振り返る。

 

「親父も歳だからな・・・」(友人)

「そうね。これから治療は辛いよね」(私~共感しているつもり)

 

.本人の意向

友人の父親は80代前半。病気知らずで、今でも軽トラックを運転し、畑仕事に出かけることが元気の源となっている。介護保険の要介護認定でいえば、間違いなく自立。近所には友人もたくさんおり、自宅には人の出入りが絶えない。やり残したことは何もないように見える充実した日々。

「このままでいい」(父親)

告知後の言葉は、積極的治療を望まないものであったらしい。

.選択した治療

その後、どういうやりとりがあったのか。がんセンターに入院し、進行の度合い、手術に耐えうる体力があるか等の検査を受け、腫瘍の摘出術を受けることが決まった。

術後は順調に回復し、退院翌日には友人の止めるのも聞かず、山に山菜採りに行くほどに元気になったとのこと。あれから半年ほどが経過、定期受診はしているが、深刻な話は聞こえてこない。(良かった)

 

.言葉の裏側

息子と父親の関係は男性特有の一定の距離感がある。ストレートな思いやりの言葉を発することは容易ではない。そうされても戸惑い、素直に喜びを表現できない・・・・・。友人親子の場合もそんな関係であるが、実のところお互いを大切に思っている。

「このままでいい」

高齢者の多くは、『いつお迎えがきてもかまわない』という。『いつって、いつ?』人それぞれにその時期は異なるだろう。でも『明日はいやだ!!1ヶ月後も早すぎる!! 野菜も植えたばかりじゃないか。1年後?孫の花嫁姿はみておきたい・・・』

『このままでいい。けれど、治る可能性があると言われたら・・・』

年齢なんか関係ないじゃないか。元気高齢者であれば、そう思って当然である。しかしながら、超高齢社会の今、『生きたい』と大声で叫べない世代であるのかもしれない。

「父親も歳だからなあ」

2014年の日本人の平均寿命は女性86.83歳、男性80.50歳で、ともに過去最高を更新した。(厚生労働省の調査)女性は3年連続世界一、男性は前年の4位から3位になり、世界有数の長寿国であることを改めて示した。厚労省は「がんや心臓病、肺炎、脳卒中などによる死亡率が改善したことが要因」と分析。医療技術の進歩や健康志向の高まりに伴って「今後も平均寿命は延びる余地がある」(同省担当者)としている。   *日本経済新聞2015.11.7記事より

この結果のように、友人の父親も平均寿命を越えた元気高齢者である。

「父親も歳だからな」の言葉の裏側には『歳だけど元気でいてほしい。なぜならば、親だから』という思いがあったであろうに、私は気づくことができなかった。

実際に、友人は術後「あと10年は生きてくれたら、それでいい」と言っていた。本心が聞けた瞬間である。

.相談援助者としての思い上がり

友人の父親には会ったことがない。もしも、お会いして対話していたら別の言葉をかけたのかもしれないが、私は重大な過ちをおかした。

 

本人・家族の意向を尊重するため大切なこと

 →その意向は真実なのか

 →ほんとうの気持ちを導き出せているのか

 →疾患と治療を正しく理解しているか

 

もしも私が言ったとおり「本人の思いを尊重して」、友人が父親の手術を受け入れなかったら・・・、今の元気な生活はなかったのかもしれない。私の言動はコンビニの接客マニュアルのようになっていたのではと、愕然とした。

相談援助を学んだ者として、なにより友人に『寄り添う支援』をしていなかったことがとても悲しかった。ぽっかり胸に穴が空いた。そして、自分のあり方が恐くなった。

 

.希望

そんな時、第3期JSP(人生の最終段階に対応できる人材育成講座)を知った。運命的な出会いである。人を理解するには、まず自分が相手を理解しようとする人にならなければならない。相手の理解者になるためのコミュニケーション技術は、日常で培われていくものである。人生の最終段階を支える個別支援の機会がなくても、自分の関わり方を見直し修正していく場面は、日々の中にもあることをエンドオブライフ・ケア協会で学んだ。後悔を落ち込みや悲しみで終結させてはいけない。なぜならば、自分はこれからも人と関わりながら生きていくからである。

現在、私は人生の最終段階を支える個別支援の機会はほとんどない。しかし、そこに携わる多くの仲間がいる。現在の立場においてできることは、個別支援をする仲間たちが『人に寄り添える人材』となり活動していくことの添え木であるように思う。とはいえ、言葉かけが多かったり足りなかったり、真意が伝わらず人を傷つけることもある。そんな私であるけれど、職場の仲間たちには『苦しむ人の理解者になる』人材になってほしいと願っている。地域住民の日々の何気ない相談にも足を止め、心を傾け『理解する人』として受け入れられることを願う。また、何よりも自分がそうありたい。

 

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◆プロフィール

・現在の職務:

社会福祉法人柏原市社会福祉協議会 福祉推進課地域福祉係 課長補佐

 

・同法人内における経歴:

居宅介護支援事業所  介護支援専門員
地域包括支援センター 主任介護支援専門員
訪問看護ステーション 管理者
総務課総務係 係長

*平成27年7月より現在の課に配属、勤務している。

 

柏原市社協は「みんなで支え合う心ふれあうやすらぎのまち」を基本理念として、地域福祉の推進を図っています。医療と介護の経験しかなかった私ですが、誰もが住みやすいまちづくりを目指し、試行錯誤しながら活動しています。

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