コラム14:看取りを地域ケア会議で語る

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  • 関わるすべての職種にできる援助

​​​​​​​横浜市片倉三枚地域ケアプラザ 地域包括支援センター 主任介護支援専門員

小薮 基司さま

(JSP3期生)

 私は横浜市にある地域包括支援センターで主任介護支援専門員をしています。基礎資格は社会福祉士でもあり、大きな枠組だと自分のことをソーシャルワーカーだと思っています。仕事の内容は、直接要支援の方の担当はすることがありますが、大半は間接的支援が占めています。具体的に一番多いのがケアマネジャーの方の相談相手で、電話はもちろんのこと、自転車同士ですれ違った時など、街の様々な場所が相談室となっています。そのような中でも今回はケアマネジャー支援としての地域ケア会議についてご報告します。

 

 私が担当する地域でも高齢化の進行と高齢2人世帯、単身世帯がじわじわと増加しています。また、総じて家族によるケア機能は低下してきており、離れて住んでいる子供世代は一昔前と比べて親への支援が経済的にも時間的にも制約が大きくなってきている印象です。そのような趨勢の中で私たちは多死社会へと入っていきます。縮小した家族の中で人生の最終段階を迎える人をまわりはどう支えたらよいのか?自分はどのような死を迎えたいだろうか?そのためにはどんな支援が必要か?どんな施策が必要か?私はこのような問いへの答えを地域の方々と見つけていきたいと思っています。そこで大きな可能性を持っているのが地域ケア会議だと思います。

 

 地域ケア会議は、個別ケースの検討から始まり、圏域ごとの地域ケア会議、市町村レベルの地域ケア会議と課題をボトムアップしていく会議体で、地域包括ケアの実現のための手法として介護保険法に位置付けられています。個別ケースの地域ケア会議では、実際に地域で暮らしている個人が抱える課題について、地域住民、医療関係者、ケアマネジャー、サービス事業者、行政、社会福祉協議会、そしてもちろん当事者も参加をして適切な支援方法や支援体制を見当していきます。このようなケース検討を「認知症」「孤立」などの様々なテーマで開催し、地域包括支援センターの圏域での地域ケア会議、市町村での地域ケア会議へと広げていき、施策(介護保険事業計画など)に反映をさせていくものです。介護保険制度は「地域の実情にあわせた○○○」へと大きく舵を切ってきており、この地域ケア会議は一人一人の生活に目を向けた政策形成にとって、とても大きな意味と可能性を持っていると私は考えています。

 

 私たちの地域包括支援センターでは平成27年4月~28年3月にかけて3回の個別ケース地域ケア会議と2回の包括エリア地域ケア会議を開催しました。そして私たちの包括支援センターの所在地である横浜市神奈川区での区レベル地域ケア会議が1回行われています。それぞれのテーマは下記の通りです。

 

 【個別ケース地域ケア会議】

  ①「どのような地域であれば独居で人生の最終段階を過ごすことができるか?」

  ②「認知症の義父の介護と子育てを同時に抱えるケアラーへの支援について」

  ③「一切の支援を拒否する方への看取り支援」

 

 【包括エリア地域ケア会議】

  ①「ダブルケアの問題を知り、地域での支援を考える」

  ②「東アジアから介護と子育てを考える」

 

 【区レベル地域ケア会議】

  ①各包括支援センターでの地域ケア会議の報告

  ②区の課題として「認知症」を取り上げるとの発表

 

 以上の「個別ケース地域ケア会議」と「包括エリア地域ケア会議」は当包括支援センターの責任が直接及ぶ範囲ですが、「個別」については「看取り」が2回、「ダブルケア」が1回、「包括エリア」では「ダブルケア」が2回となっています。

 

 2回にわたって「看取り」をテーマにしましたが、「身寄りがない」とか「支援を拒否している」状態にあるクライアントに対する意思決定支援や支援の糸口を探ることをテーマに、まずはケアマネへのフォローから入り、サービス事業所の動き方について検討をしていきました。そこまでであればサービス担当者会議やケースカンファレンスとあまり変わりがありませんが、地域ケア会議の場合には地域住民が参加していることに意義があります。お一人の「旅立ちの準備」について、サービス事業所間の話し合いから徐々に地域住民を巻き込んだ話し合いになっていきます。医師も看護師もケアマネも地域住民も「どのような私たちであればその方が穏やかに過ごせるか?」ただそのことだけを考える場になっていきます。死にゆくあり方に決まりはなく人それぞれです。このように一人一人の大切な瞬間を専門家だけでなく地域の人々とシェアする場として地域ケア会議を重ねていくことが、多死社会へ向けて地域の看取り力を高めていくことになるのだと思います。ある回では、身寄りがなくお一人で人生の最期を迎えようとしている方について、「医療の力は大切。でも、近隣の方がベッドサイドを訪れて様子を見に来てくれる。それだけで苦痛が緩和される」ことが結論として導き出されました。

 

 地域ケア会議は様々な調査による量的なニーズの把握に対して、質的に把握したものを施策に反映させるという役割があります。会議というものはややもすると、開催することが目的となり、極めて形式的な内容になったり、最初から結論が決まっていたりしてしまいます。地域ケア会議がそのような会議になれば、行政主催のルーチンワークになってしまいます。そうならないように、意味のある地域ケア会議がたくさん開かれ、そこで語られたことを確実に施策に反映させるべくその手法を確立していきたいと思っています。

 

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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