コラム22:「地域における訪問看護の役割
「苦しんでいる人は自分の苦しみをわかってくれる人がいるとうれしい」を地域の共通語に」
公立岩瀬病院訪問看護ステーション 管理者
結城 光さま(ELC7回生、認定エンドオブライフ・ケア援助士、認定ELCファシリテーター)
私は、福島県須賀川市にある公立岩瀬病院訪問看護ステーションに、平成23年から勤務しています。当事業所には、訪問看護、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所が併設されていて、普段から事例検討や困難事例の関わりについて連携しています。
私が訪問看護師になった当初は、周囲に訪問看護をしている人がほとんどおらず、訪問看護は何をする人か分からないイメージが私には強かったように思います。自分なりに「訪問看護とは」を考えながら活動し、在宅だからこそ、誰かが決めるのではなく、その人が望むように療養できるお手伝いをすることが訪問看護の大きな役割だと思い、サービスを提供してきました。
利用者さんの意思決定を支えるために、管理者としてスタッフを育成する上で課題と感じていることは、どうすれば、スタッフ一人ひとりが利用者さんの「どうしたいか」「どうなりたいか」を引き出せるようになるかでした。そのためにアセスメントの強化や事例検討などに取り組みましたが、その時理解してもなかなか実践に繋がらないことが多くありました。
以前、50歳代乳がん末期の女性の訪問を開始するとき、「自分と同年代で背景も似通った方に訪問看護を担当してほしい」と希望があり、ちょうどぴったりの訪問看護師に担当をお願いしたところ、返ってきた答えは「嫌だ、怖いもの」でした。訪問看護師として「人生の最終段階」に関わる重要性を感じ、取り組みながら、これから2025年に向け、もっと多くの方の人生の最終段階に関わる必要が出てくるのに、こんな状況では間に合わないと焦りの気持ちでいっぱいになりました。
それから機会があれば、どこにでも、エンドオブライフケアと名の付く研修に参加しました。しかし今回の学びほど、私にとってしっくりくる研修はありませでした。「苦しんでいる人は自分の苦しみをわかってくれる人がいるとうれしい」 そう、これだと思いました。
研修後、すぐにステーション事業所内にこの言葉を書き出して、この言葉を大切に利用者さんに関わりたいことや、どんな自分なら「わかってくれる人と思ってもらえるか」をスタッフに伝えました。スタッフにもすぐに響いたようで、自分たちが苦手にしていたスピリチュアルな部分で壁にぶつかったときや避けてきた関わりも、この言葉で苦手意識が少なくなってきたようです。「死にたくない」「いつまで生きられるか」と聞かれると何も答えられずにいたが、無理に答えを返すのではなく、反復することを意識的にするようになって苦手意識がなくなり、人生の最終段階の方への訪問が嫌でなくなった。事例検討やデスカンファレンスでも「結局、苦しんでいる人・・・の、この部分が大切なのですよね」とスタッフから声が上がるようになり、関わりの意識を合わせることができるようになりました。みんなと実践できる言葉だと実感しています。
一方、スタッフ自身は「利用者の苦しみに気づこうとするようになった」「関わりを持つ自分の姿勢の原点になっている」と実感していたり、「悩んだとき目にできるように携帯の待ち受けにしている」と自分なりに利用者の苦しみをキャッチしようとしています。
福島県は震災後の原発事故の影響で復興にもバラつきがあり、未だに人材不足の地域もあります。現在、私の訪問する地域でも地域包括ケアシステム構築に向けた取り組みをしていますが、システム構築や多職種連携という難しい言葉ではなく「苦しんでいる人は自分の苦しみをわかってくれる人がいるとうれしい」が地域の共通語として当たり前のように浸透したら、連携はスムーズになり、苦しんでいる人が穏やかに人生の最終段階を過ごせる地域になるのではないかと、自事業所内での取り組みから実感しています。
今後は、地域の中でどの職種でもエンドオブライフケアの考え方を持てるように援助士として活動します。またファシリテーターになって福島県内でもっと仲間を増やすことを目標に活動したいと思います。
エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。
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