コラム1: エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座のめざすこと
2015.07.24
コラム1: エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座のめざすこと
エンドオブライフ・ケア協会理事、めぐみ在宅クリニック医師 小澤竹俊
医師になって29年目を迎えます。苦しむ人の力になりたいと願い、医学を学んできました。しかし、どれほど医療技術が進歩しても、すべての疾病を根治することは困難です。やがて治療が難しくなると、多くの医療者は、患者さん・家族のもとに行くことを苦手と感じるようになります。力になれないからです。少しでも力になりたいと思えば思うほど、力になれないとき、向き合うことが難しくなります。
苦しむ人の力になりたいと願っていた私は、医療過疎地での医療に憧れていました。しかし、本当に苦しむ人は、医師の少ない地域で生活をおくる人達だけではなく、治療が難しく孤独と闘っている患者さん・家族こそ苦しむ人達であろうと確信し、当時まだ全国でホスピス・緩和ケア病棟が10箇所程度しか認可されていなかった時代に、緩和ケア病棟で働くようになりました。緩和ケア病棟は、すばらしい場所です。しかし、入院できる患者さんは、悪性腫瘍と後天性免疫不全(AIDS)の患者さんだけです。一部の患者さんだけの診療ではなく、どこに住んでいても、どんな病気でも、安心して人生の最期を迎える社会を目指したいと願いました。そしてめぐみ在宅クリニックを開設して、今年で9年目を迎えます。
エンドオブライフ・ケア協会を設立した目的は、それぞれの地域で、実際に人生の最終段階の人とその家族の支援にあたる人材を養成することにあります。総論として地域包括ケアの学びは大切ですが、各論として具体的に関わることを学ぶ研修は、ほとんど実施されていません。
エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座を企画するにあたり、一番、意識したことは“苦手意識”から、“関わる自信”への変化です。どのような研修内容であれば、苦手意識を関わる自信へと変えることができるのでしょう。知識だけでは困難です。どれほど痛みを和らげる知識を学んだとしても、日に日に弱っていく人と関わる事を苦手と感じる医療者は少なくありません。まして医療を専門にしない介護職の人が、人生の最終段階を迎えた人への援助を、自信を持って行うことなど、きわめて困難なことだと思います。
この講座では、“解決が困難な苦しみを抱えた人に対する援助を言葉にすること”を学びます。何をすると、援助になるのか、それを言葉にします。励ましではなく、何かの説明ではなく、具体的に“何をすると良いのか”について考えます。そして、難しい言葉ではなく、子どもにわかる言葉で紹介したいと思います。かつて農村医療で有名な佐久総合病院の院長、若月先生は、子どもにわかる言葉でなければ、農村で健康教育はできないと言われていました。同じことが、地域包括ケアの人材育成で言えることでしょう。医療を専門としない介護職の人が受講して、理解できることを意識して、この講座を企画しました。
ポイントは、顔の表情です。人生の最終段階を迎えた人と関わるとき、血圧や体温や酸素飽和度など、数字を気にされる方は少なくありません。とても大切な数字に違いはありません。しかし、もっと大切なことは、顔の表情です。どれほど数字が良かったとしても、顔の表情が苦しさでゆがんでいたら、良いとは思えません。しかし、たとえまもなくお迎えが来ることがわかっていたとしても、顔の表情が穏やかであれば、それは良いケアを受けていると考えてよいでしょう。どんなとき、その人は穏やかな顔になれるのでしょう?この意識を持つだけで関わり方を言葉で表現できるでしょう。痛みがないとき、家族がそばにいるとき、住みなれた自宅(施設)で過ごすとき、大好きなふるさとの話をしているとき、好きな曲を歌ったり聴いたりしているとき。何気ないことですが、これらの穏やかになれる理由を大切にしたいと思います。その理由を応援できる人は、何も医療職だけではありません。本人と関わる全ての職種が行えることですね。
今まで何もできないと苦手意識を持っていた人が、自分にもできることがあると、言葉にすることを学ぶとき、それぞれの地域で、人生の最終段階にある人と誠実に関わる人材が増えて行くことを期待します。2025年まであと10年です。今から準備しておかなければ、間に合いません。このテーマを広く伝えて行きたい、その思いで、エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座をお勧めいたします。
エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いいたします。
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