コラム44:援助者を支える構造を探して
2018.08.08
公益財団法人 東京都医学総合研究所
心の健康プロジェクト 主席研究員
中西 三春さま
◆認知症と共に生きる人のための緩和ケア
私は東京都関連施設の研究員として、東京都の委託を受けて認知症ケアプログラムの開発に従事しているほか、海外研究者との共同体制で認知症と共に生きる人のための緩和ケア(認知症緩和ケア)のあり方を研究しています。
緩和ケアにおいては痛みがないこと、快適さを最大限に高めることがケアの重要な目標とされています。しかしご本人が認知症などにより意思表示ができなかったり、痛みや快適さのアセスメントが難しかったりする場合があります。
この課題について検討するうえで、現場での状況や考え方を知る機会を得たいと考え、2018年8月のエンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座に参加させていただきました。
◆援助者を支えるもの
講座を通じて小澤先生から投げかけられたメッセージを受け、私が認知症ケアプログラムの開発に携わってきた中で感じたことを改めて認識しました。
講座では人生の最終段階を迎えられたご本人が穏やかな表情であることが目指す方向になると繰り返し伝えられていました。認知症という現時点では治療法のない病と共に生きる人へのケアでも、とくにご本人が言葉で自分の意向を伝えることが難しい段階で、穏やかであることがケアの目標として位置づけられています。ただ、ご本人の認知症が進行した状態では、表情を読み取ること自体も難しい場合があります。講座で言及されていた、支える人(援助者)を支えるものは、こうした葛藤を一人で抱えたままにしないためにもポイントであると感じました。
援助者がご本人を目の前にして対応に不安を感じるとき、目に見えて分かりやすい技法・スキルを手にすることで、安心したい気持ちがはたらくのかもしれません。私がいま所属する「心の健康プロジェクト」では、統合失調症などの精神疾患と共に生きる人への支援体制について研究しています。精神疾患の当事者さんは「なぜ自分がこの病を持たなければならないのか」という、答えのない問いを抱きながら生きています。けれども海外の様々な手法が紹介され日本の現場に導入される過程で、根底にある理念をあまり咀嚼しないで、個別対応の技術を先に取り入れるといったことが起こっているかもしれません。
エンドオブライフ・ケアに限らず、ある組織が何かそれまでに無かった取り組みを続けていくには、地域の中でその役割が評価されるといったフィードバックが必要だと言われています。講座でも仲間づくりが大事であること、フォロワーを増やして地域に広げてほしいというお話が出ていました。人が今までと違う考え方で何かに取り組むとき、もしそれが周囲に理解されない孤独の中で行うとしたら、とても苦しいことだと思います。人生の最終段階を迎えるご本人を孤独にしないことと同様に、援助者の方を孤独にしない地域・社会であるための方策を見つけたいと考えます。
◆今後の研究に向けて
講座を通じて、私自身がケアのあり方について課題と考えていたことと重なる部分を見つけ、他方では気づかなかった新しい考えを知ることもできました。改めて協会、参加者の皆様に御礼申し上げます。今後、援助者の皆様がご本人と向き合うことを支援する体制や枠組みの提案につながる研究ができればと思っています。
続きはログインしてお読みください。
カテゴリー
- エンドオブライフ・ケア
- 自宅
- 施設
- 養成講座
- 人材育成
- 地域
- 情報共有
- 支える人の支え
- 家族
- 原点
- 関わるすべての職種にできる援助
- 介護
- 医療と介護の連携
- 穏やかな最期
- 尊厳
- ディグニティセラピー
- 意思決定支援
- 緩和ケア
- 死別後のつながり
- アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
- 離島・僻地
- わかってくれる人がいるとうれしい
- 解決できない苦しみ
- リハビリテーション
- 研究
- 言葉にする
- コミュニケーション
- 希望
- 言えない想い
- 食支援
- コレクティブインパクト
- 自己決定
- いのちの授業
- 子ども
- ペット
- 美容
- 認知症
- 暮らしの保健室
- 推定意思
- 心不全
- 薬剤師
- 音楽
- 不条理
- 新型コロナウイルス
- 疎外感
- 選ぶことができる自由
- グリーフ
- オンライン
- 聴く
- 固定観念
- プロボノ
- ビジネスパーソン