コラム47:エンドオブライフ・ケアのスタートラインに立って

  • 研究
  • 自己決定
  • 推定意思

みずほ情報総研株式会社
社会政策コンサルティング部 チーフコンサルタント 
羽田圭子さま (ELC第32回生)

本稿は、主に下記の4つの事項について書かせていただきます。

  1. 自己紹介
  2. 義父の意思の推定
  3. エンドオブライフ・ケアとの関わり
  4. 「エンドオブライフ・ケアの現状に関する調査」の結果概要 
  5. *弊社コラムの転載
    【参考】エンドオブライフ・ケアの関連調査の紹介

 

1.自己紹介

 私は、みずほ情報総研株式会社というコンサルティング会社で、国・自治体が実施する社会保障分野の調査研究等を支援させていただいています。

 ご存知のように、日本は、世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進んでいます。医療技術の進歩、医療・介護にかかる制度の整備、世帯の小規模化、地域とのつながりの希薄化、個人情報保護、社会保障費用の自己負担の増加、価値観や生活様式の多様化といった様々な要因も国民の生活に大きな影響を与えています。

 国・自治体は、2025年~2040年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域共生社会の実現と地域包括ケアシステムの構築を推進しています。

 国・自治体が、国民のニーズと社会保障制度の持続可能性のバランスをとりながら、効果的、効率的に政策を立案、推進していくためには、多岐にわたる基礎データの収集や、エビデンスにもとづいた分析等が必要となるため、コンサルティングという業務があるのではないかと思っています。

 

2.義父の意思の推定

 話が変わり恐縮ですが、私自身の看取りの経験として、15年前に75歳でくも膜下出血で亡くなった義理の父の話を書かせていただきます。

 義父は70歳を過ぎて仕事を辞めた後、毎週2泊3日で横須賀から東京の我が家に、小学生の息子、保育園児の娘の子育てを手伝いに来てくれていました。耳は遠くなり、すり足になってはいましたが、子どもが大好きで、子どもからも好かれる優しいおじいちゃんでした。

 我が家に来るようになってから、義父と私は二人で話すことが増えました。そんなある日、戦争中は横須賀の海軍の航空機の研究所で働いていたと初めて話してくれました。終戦により仕事を失った後は、自動車修理工になり、結婚して家庭を持ったそうです。

 8月31日、義父は、明日から新学期、孫の世話のために東京に行くのだと、お土産に買ったぶどうとチョコレートをリュックに背負ったまま、自宅の玄関で倒れました。ICUで手当てを受けましたが、意識が戻ることはなく、医師に選択を求められた義理の母は、生命維持装置をはずす決断をして、義父は9月18日に亡くなりました。

 その日の夕方、私は、子どもをプールに連れていった帰りに、公園で子どもと遊んでいましたが、突然、38度を越す高熱が出て、立っていられなくなりました。1時間ほどベンチで休むと、熱も平熱に下がり、気分も回復したので、帰り始めたところに、病院で立ち会っていた夫から電話があり、義父が息を引き取ったと知らされました。

 1時間だけ高熱が出たのは、義理堅い父が最期の力を振り絞って飛んで来てくれたのかなと思いました。義父が「圭子さん、約束していたのに行けなくてごめんなさい。さようなら。」と言っているような気がしました。

 義父は、若いころからいろいろな苦労をしたそうですが、人に怒ることもなく、いつも自分のことより先に人のお世話をする人でした。延命措置を継続するか否かについて、家族で協議をした際にも、義父は望まないであろうという「意思の推定」を行うことができました。(当時、「意思の推定」という言葉は知りませんでしたが)。義父の心残りは「孫の家に行く約束を果たせなかったこと」ではないかと思うのは、私の希望的憶測でしょうか。毎年、9月の敬老の日が近づくと、義父のことが思い出されます。

 

3.エンドオブライフ・ケアとの関わり

 私は、普段、社会保障分野の調査研究の仕事をしていて、データや情報などのエビデンスは、政策や国民の生活の質の向上などを考える上で大切だと思っています。一方で、自身の経験からも、人の生死の際には、科学的には説明が難しいことが起きるかもしれないとも思っています。

 医療、介護の現場の方は、患者、利用者を援助して苦しみや課題を解決したり軽減できますが、コンサルタントは実際の患者、利用者を援助することはできません。政策やしくみを考えたり、改善するための「基礎データ」をつくる仕事なので、遠回りで地味な作業です。

 また、現場経験が無く、リアリティが不足しているので、エンドオブライフ・ケアについても、関わっておられる方々の話をもっと聞きたいと思い、2017年8月の2日間、めぐみクリニックで援助者養成基礎講座を受講させていただきました。私には、初めて聞く内容ばかりでしたが、理論と経験に裏付けられた実践的な援助技術には、目からうろこが落ちた思いがいたしました。

 貴協会の先駆的な活動を、専門職にとどまらず、エンドオブライフ・ケアで苦しんでいる(今後、苦しむかもしれない)方々にも伝えたいと思いました。現状は、エンドオブライフ・ケアに関するデータや情報が不足しているのではないか、本人や家族の負担や苦しみを少なくする優れた取り組みがあるのならば皆がもっと使えるように広めたい、さらには社会としてエンドオブライフ・ケアを支えるしくみをつくることが必要なのではないかと感じていたからです。医療、介護に従事されている方がどんなに高度で素晴らしい知識や技術を持ってケアを提供しても、当事者である国民が、基礎的な情報や知識を持っていないと十分に生かされず、効果も低減してしまうのではないかと思うのです。

 幸い、2017年9月に、厚生労働省の老人保健健康増進等事業の「エンドオブライフ・ケアの現状に関する調査」の実施が決まり、小澤先生に委員を御願いし、ご指導をいただくことができました。事務局の千田様にも貴重な情報、アドバイスをいただきました。本当にありがとうございました。

 私としても、会社としても、エンドオブライフ・ケアの現状の一端を把握することができたとは思いますが、現在はスタートラインに立ったに過ぎない段階です。今後も様々な機会をとらえて、調査の実施や普及・周知等を継続していきたいと思っております。

 2日間の研修終了時には、生と死を表すというオレンジとブルーのリングをいただきました。たくさんの方が、リングのように美しくおだやかな人生の黄昏と静かな夜を迎えることができたらと願うとともに、貴協会の皆様のご活躍とご発展をお祈り申し上げます。

 

4.「エンドオブライフ・ケアの現状に関する調査」の結果概要 *みずほ情報総研のコラムの転載

 以下は、小澤先生、千田様にご協力いただいた「エンドオブライフ・ケアの現状に関する調査」に基づく弊社のコラムの転載です。調査結果の概要としてお読みいただけますと幸いです。

*本稿は、みずほ情報総研株式会社のサイトに2018年7月10日に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

 

「エンドオブライフ・ケアを知っていますか?」

2018年7月10日 社会政策コンサルティング部 羽田 圭子

 

■少産多死社会に突入した日本

2016年の日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳である(*1)。2015年と比較して男性は0.23年、女性は0.15年上回り、長寿化が進んでいる。同じ2016年の死亡数は約131万人、出生数は約98万人で、33万人の死亡数の超過となっている。2000年と比較すると、死亡数は約30%増加、出生数は約20%減少しており、わが国はすでに少産多死社会となっている(*2)。

■エンドオブライフ・ケアに関するアンケート調査

エンドオブライフ・ケアとは、人生の最終段階にある人(以下、本人)が、最期までその人らしく生きることができるように支援することであり、年齢や健康状態や診断名は問わない。本人のいろいろなつらさに対してかかわり、おだやかに過ごすことができるように生活の質を高めることを目指すケアをいう。

当社はエンドオブライフ・ケアの現状を把握すべく、この10年間に家族・近親者を看取った経験のある50代・60代の男女1,000人を対象として、2018年1月にインターネット調査を実施した(*3)。以下、結果の一部を紹介する。

 

■両親を看取った人が多い

対象者の51.0%が父親を、44.0%が母親を亡くしている。自身が「最もお世話をした方」は父親が38.5%、母親が35.8%であり、計74.3%が親となっている。

生前に行った支援としては、「病院、施設を訪問して話をする」が64.4%と突出しており、次いで「医師やケアマネジャーとの面談、付き添い」40.0%、「買い物」32.6%などとなっている。

調査した21項目の支援を大別すると、「会話、食事、見守り」「介護・看護」「家事・生活支援・家や設備の管理」「金銭に関すること」など、生活の広範囲にわたって支援を行っていた。

特に、亡くなる2~3カ月前の支援の頻度と量については、「増えた」48.2%、「変わらない」25.9%、「減った」2.8%と、半数近い家族・近親者の負担が増加していた。

 

■死期の予測は難しい

死因は、「がん」31.3%、「高齢による衰弱」23.3%、「肺炎」17.5%、「心疾患(心臓病)」10.2%、「脳血管疾患(脳卒中)」6.8%が上位5位である。また、亡くなる2~3カ月前でも、「本人の死が近いと思っていなかった」とする割合が37.3%と4割近く、家族・近親者でも死期を予測することが難しい様子がうかがえる。

本人が亡くなった場所は、「医療機関」が67.1%と最も多く、「自宅」は18.9%、「施設」12.4%の順である。

 

■死を前にした本人に向き合う家族・近親者も苦しみを抱える

自己の死を意識した本人からスピリチュアル・ペイン(死を前にした時に感じる解決することが困難な苦しみ、*4)を「感じたことがある」人は30.2%であり、本人に接する時「つらいと感じた」人は61.1%にのぼった。

また、本人の人生の最終段階において精神的負担を「感じた」人は46.0%と、半数近くを占めた。がんの治療において「家族は第二の患者」ともいわれるが、家族・近親者の苦しみは、本人の死を前にして大きくなることが調査結果から明らかとなった。

 

■本人、家族・近親者を主役としたチームで援助・支援することが有効

エンドオブライフ・ケアにおいては、回復を目指すことは難しくなり、身体の痛みの緩和、快適に過ごせる環境整備、それまでの生き方や意思を尊重した対人援助などが重要になるといわれる。

人は自分自身を看取ることができない。エンドオブライフ・ケアにおいては、家族・近親者の役割や苦しみも大きくなるため、家族・近親者への援助・支援も重要となる。

とりわけ医療・介護従事者の専門職が果たす役割は大きいと考える。本人、家族・近親者に最期まで寄り添い、向き合い、支えることは医療・介護従事者の本来的業務の一つであるものの、看取りは昼夜を問わず、容態の急変等が起きうることから24時間体制を取り、援助者・支援者がチームを形成して緊密に連携して、状況の変化に迅速、的確に対応できるようにすることが重要である。

エンドオブライフ・ケアに関する知識・経験の習得、組織的な対応、多職種連携等が求められ、負担も大きい業務である。医療・介護従事者へのさらなる教育・研修機会の創出、働きに見合った評価や報酬等も必要だと考えられる。

 

■エンドオブライフ・ケアについて考えてみよう

あなたには頼れる家族・近親者、近隣の人、友人はいるだろうか。エンドオブライフをどこで過ごしたいと思っているだろうか。すでに意思決定をしているだろうか。

「死について語ることはタブー」「考えても先のことはわからない」という声も聞かれる。しかし、統計や数字としてではなく、大切な人や自身の将来を思い浮かべ、考えてみてほしいと思う。誰もが「死すべき定め」にあるのだから。

 

*12016年簡易生命表(厚生労働省)。平均寿命とは0歳の人の平均余命。

*22016年人口動態調査(厚生労働省)

*3エンドオブライフ・ケアの現状に関する調査研究報告書(みずほ情報総研、2018年3月)

*4スピリチュアル・ペインは、具体的には以下のような言葉で表現される。「まわりに迷惑ばかりかけて情けない」「トイレの世話になるくらいなら、死んだほうがましだ」「死ぬのがこわい」「今までしていた仕事や家事を続けたい」「家族を残していくのが心配」「さびしい」など。

 

【参考】エンドオブライフ・ケアの関連調査の紹介    

弊社では、自主調査も行っており、看取り、ターミナルケア、エンドオブライフ・ケアなどの関連調査が近年、増えてきています。以下に3例をご紹介させていただきます。
①が2017年度に小澤竹俊先生、千田様のご協力をいただき、実施した調査です。

③は2013年度に貴協会の長尾和宏理事にご指導をいただいた調査です。
下記のURLで報告書を掲載しておりますので、ごらんください。

 

【関連調査①】
平成 29 年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健康増進等事業

『エンドオブライフ・ケアの現状に関する調査研究』 平成30(2018)年3 月

<調査概要>

・最近10年間に身近な方の看取りを行った50代60代の方1000人のアンケート調査

・介護事業所のエンドオブライフ・ケアの取り組みの現状と今後についてのアンケート調査

・先進的なエンドオブライフ・ケアの取り組みをされている個人・団体の事例紹介

<報告書本編のURL>

https://www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/mhlw_kaigo2018_0901.pdf

<報告書資料編のURL>

https://www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/mhlw_kaigo2018_0902.pdf      

<関連コラムのURL> 

「エンドオブライフ・ケアを知っていますか?」2018年7月10日

https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2018/0710.html

 

 

【関連調査②】

平成 27 年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健康増進等事業

『地域包括ケアシステムにおける特別養護老人ホームの実態・役割に関する調査研究事業』
 平成28(2016)年3 月

<調査概要>

・地域包括ケアシステムにおいて特別養護老人ホームに期待される役割の一つの看取りの実態と要件に関するアンケート調査 他

<報告書のURL>

https://www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/mhlw_kaigo2016_01.pdf

 

【関連調査③】

平成25 年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業

『長期療養高齢者の看取りの実態に関する横断調査事業』 平成26(2014)年3 月

<調査概要>

医療療養病床、介護療養病床、介護老人保健施設(従来型/介護療養型)、特別養護老人ホーム、居住系サービス事業所、在宅療養支援病院・診療所を対象としたアンケート調査(施設類型ごとの看取りの方針、実施状況、課題等) 等

<報告書のURL>

https://www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/mhlw_kaigo2014_04.pdf

 

 

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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