コラム50:母乳育児支援の立場から見る「5つの課題」の普遍性 〜「始まりと終わり」の共通点〜        

  • 支える人の支え
  • わかってくれる人がいるとうれしい
  • 子ども

多摩ガーデンクリニック 小児科、田村クリニック在宅診療部 内科 医師
高橋有紀子さま 
(ELC第45回生、認定エンドオブライフ・ケア援助士、認定ELCファシリテーター)

 当方はもともと小児科医です。ここ数年高齢者の在宅医療にも従事しています。今年2月に偶然小澤先生を囲む少人数の勉強会を知り参加したことから、自分の人生に新しい大きなベクトルが増えました。お話を伺って最初に感じたのは、「この支援と母乳育児支援の根っこは同じだ!」ということでした。人生の終末期に関するお話を伺ったのに、生まれたての支援との間に共通稿を見いだすとは、自分でも全く予想していませんでした。今回はこの「始まりと終わり」の共通点に関して思うところを書かせていただきます。

 これまで仕事をしてきた中で約1/3程度を新生児科医として働きました。その経緯から、母乳育児支援の国際資格を持ち、ここ10年は小児科一般外来で赤ちゃんとお母さんの支援を続けて来ました。一般に「授乳は自然に出来るようになる」「出る人と出ない人がいる」と思われがちですが、実際にはいくつかの簡単なコツを知っているかどうか、に大きく左右されます。そして全ての母親が十分な情報を得られるとは限りません。「コツ」を知らないために上手くいかない場合がままあること。「コツ」を体系的にきちんと教えられる人がまだまだ世の中に少ないことから、多くの母親達が「赤ちゃんに最高のものを届けたい」という希望と「自分には上手く出来ない(自分に何か問題があるのではないか)」と思い込んでしまう現実とのギャップに悩み苦しんでいます。希望と現実の間に、苦しみがあるのです。この構造は、エンドオブライフ・ケア(以下ELC)で出逢う場面と良く似た構造ではないかと考えました。

 母乳育児支援の分野でもコミュニケーションスキル(以下CS)を学びますが、基盤となる理論はピアサポートの現場から発しています。ここでよく用いられる「相手と同じ靴を履く」という言葉があります。自分がどんな専門性を持っていたとしても一旦それを手放し、相手と同じ目の高さに立つことが重要だという意味です。この立ち位置とELCにおける援助の基本に共通点を感じ、更に学びたくなり、5月に基礎講座を受講しました。

 その後、支援に関わる様々な業種毎に異なる理論があることを知りましたが、実は基本は同じではないか。そしてELCにおける「5つの課題」は共通基盤になり得るのではないか。と考えました。「医師のための母乳育児支援セミナー」のCS講義担当に立候補し、この夏はひたすら「5つの課題」と向き合って暮らしました。ELC協会のご厚意に甘えさせて戴き、この部分のスライドをお借りして、母乳育児支援で我々が日々行っている支援に関して俯瞰を試みました。ともするとCSは“対話上のテクニック”としてのみ理解される場合もあり、「要するに、(ただ)繰り返しておけば良いんでしょう」といった声も時に聞かれます。そこで、講義の中で「傾聴と反復」部分のロールプレイを行い、参加者にもごく一部ですが体験して戴きました。「腑に落ちた」という声と「難しい」という両方の声が聴かれたのは、ひとえに講師の未熟さによるものです。あるベテラン小児科医は、講義の後で興奮気味にこう語りました。「こうすれば良いのか、と目から鱗が落ちた。これまで『自分は口下手だから上手いことはとても言えない』と思っていた。反復で良いんだ。傾聴と反復は、こんなにもpowerfulなのかと思った」・・・日々の支援に真剣に向き合い悩んできた方だからこそ、「傾聴と反復」の効果が直接響いたのだと思います。これは最も嬉しかった感想の1つです。

 「苦しんでいる人は、自分のことを分かってくれる人がいると嬉しい」難しい言葉を一切使わずに、この言葉で基本を教えて下さっていることに、小澤先生の想いを強く感じます。「自分のことを分かってもらえた」と思う時、支援される方は「自分はこれで良いんだ」「ここにいても良いんだ」と感じるかもしれません。これはどんな方にも共通の様に思います。

 また、5つの課題の図をじっくり眺めていて、改めて、援助者が相手の苦しみや支えをキャッチした後の部分に「今のままの自分では十分な支援を届けられない」という悩み・苦しみが隠れていることに気づきました。「どのような自分であれば相手の支えを強められるかを知り、実践する」という課題は支援者自身の成長へ向けての努力・学びを示唆しているのではないでしょうか。おそらくは試行錯誤を繰り返しながら自身の支えを知り、支えに感謝し、次の支援へ向かう原動力が生まれる。という構造なのではないかと考えました。

 一方で、支援を受ける側についても「支援を受けて、自らの支えを知る」だけでは終わらない可能性があります。母乳育児支援を例にあげると、支援を受けた母が、後に自らも誰かの助けになりたいと願い、学び、ピアサポートグループのリーダーになる場合があります。その場合、彼女は図の左側から右側に移動して、支援者として学ぶ側に立ちます。このようにして支援する側・支援を受ける側でそれぞれが成長し、学びの成果を他者に与え続けていくのだとしたら、私達の日々の支援には将来への希望の種が多数含まれていると言えるかもしれません。

 以上、日々の支援に関して或いはこのような解釈も可能なのではないか。と考えた次第です。たとえフィールドが異なっても基本構造は同じかと思います。今後、日々の診療の中で検証していければと願います。多くの示唆を与えてくれる「5つの課題」については、想い考えることが多々あります。このような普遍性のある基本的かつ強力なツールを与えて下さった小澤先生とELC協会の皆様に深謝します。ともに学び続けられ支えとなっている仲間達にも日々感謝しています。引き続き、どうぞよろしくお願い致します。

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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