<日本のどこかで、あなたを待っている人がいる>

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 ホスピス・緩和ケアで永年仕事をしてきた中で、大切にしていることがあります。それは、自分にしかできない専門的な援助ではなく、少しの勇気と、相手を思う気持ちさえあれば、多くの人が行うことができる援助を伝えて行きたいということでした。

 そのように考えた理由は、きわめて簡単です。私が関わることができるのは、本当にごくわずかな人にすぎないということです。どれほど力になりたいと願っても、せいぜい一年間に主治医として関わることができるのは100名前後ぐらいかと思います。ですから、いつも自分の手の届かないところで苦しんでいる誰かのことを心に留めています。

 では、どうしたら自分には手が届かない誰かの力になれるでしょう。答えはきわめてシンプルです。私の代わりに、関わって頂ける担い手を応援すれば良いのです。

 

 一つの問いを紹介します。英語圏の人達とコミュニケーションがとれるようになるためには、何を学ぶと良いでしょうか?

 英語の学び方は、その目的によって異なります。学生であれば、英語の試験の成績がよくなることが目的となります。そのために英単語、英文法、長文読解、英作文、リスニングなど、さまざまなジャンルにわけて学びます。一方、海外から日本に来た英語圏の人とコミュニケーションを取りたいときの英語の学び方は異なります。

 もちろん英単語も英文法も不必要とは言いません。英単語を並べるだけで、旅先では通じることでしょう。しかし、目の前にいる英語圏の人が何かで困っていて、力になりたいと思うとき、受験勉強と同じ英語の学び方では、学校の試験の成績は向上しても、実際の現場で実践できるかというと、かなり怪しいことでしょう。

 

 もう少し、具体的な場面で考えてみたいと思います。
 立ち寄ったコーヒーショップで一休みしていると、偶然にも隣に海外から旅行に来たと思われる老夫婦が話し合っています。テーブルには英語で書かれた観光地図があり、どこに行こうか悩んでいる様子です。できれば、話に加わり、観光スポットやお勧めのお土産などを紹介してみたいと考えます。

 さて、この場面で、せっかく老夫婦の力になりたいと思っていても、英語でのコミュニケーションに苦手意識があれば、声をかけることもためらうことでしょう。何を話しているのかがわからず、自分の考えていることも伝えることができないからです。

 では、何を学ぶと、このような場面でも自信をもってコミュニケーションを取ることができるでしょう。具体的には、たくさんの生の英語を耳で聞き、そして、きまったフレーズでも良いので、自分の考えを伝える基本的な定型句を身につけておけば、少なくとも関わることができることでしょう。そして、繰り返し、経験を積むことが一番の学びになります。本を読むよりも、英語圏で生活をすることが一番の上達となります。

 

 話を、今の日本に戻しましょう。緊急事態宣言が1ヶ月延期となりました。病気だけではなく、さまざまな方面で、苦しむ人は増えていくことは避けられません。

仕事に行くことができない。
自由に友達と会うことができない。
楽しみにしていたイベントが中止になった。
自由に買い物に行けず、お気に入りのお店に食べたり飲んだり騒いだりできない。

気持ちはだんだんと滅入り、何もしたくない思いや、これから何を支えに生きていていってよいかわからない思いがわいてきます。ちょっとしたことでイライラして、誰かにあたったり、ふがいない自分を責めたりします。

 

 では、あらためてもう1つの問いを出します。目の前で苦しんでいる人が、ぼそっと次の言葉をあなたに話しました。あなたは、力になりたいと考えています。

「どうしてこうなってしまったのだろう?今年の正月までは普通に生活していたのです。本当であれば、あれもしたかった。これもしたかった。でも、今は何一つできない…。もう生きることすらつらく思うこともあります。これから、どうすれば良いのでしょう?」

 この人と、このあと対話を続けてください。できれば、10分後に、少しでも気持ちが穏やかになれるような援助ができればと思うのです。皆さん、いかがでしょうか?

 ホスピス・緩和ケアに関する書籍は、この20年、本当に増えて来ました。しかし、私が知る限り、この会話の続きを具体的にわかりやすく教えてくれる本に出会ったことはありません。もし書いてあったとしても、“相手に寄り添って話を聴きましょう”など、抽象的な表現がほとんどです。

 私は、できれば、この後にどのように会話を続けていくと良いのか、私たちが発する言葉を選ぶ1つ1つの意味の基本型を学べば、自ずから現場で学び続ける事ができると考えています。

 人は苦しみが大きくなると、人を批判したり、傷つけたりします。そして、自らも傷つけてしまうかもしれません。もしこのまま経済的にも苦しむ人が増えていくと、最悪のシナリオは、自殺者が増えてしまうことでしょう。

 どれほど心理を専門とする人達が頑張っても、関われる人は限られています。専門職にアクセスできない人も増えていくことを案じます。

 安易な励ましがまったく通じないホスピス・緩和医療の世界で学んで来た関わり方は、今は多くの人達が必要としていると感じています。もし、よろしければ、私の代わりに苦しむ人の力になってくれませんか?

 

苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいると嬉しい

 

 この視点を意識して、援助的コミュニケーションが展開されます。以前では、2日間研修(エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座)の案内でしたが、現在は集合研修を行うことができません。その代わりに、5月からは、徐々にオンラインでの研修プログラムを開始します。そして、願わくば、この内容を学んだ人が、それぞれの地域で実践しながら伝えていくことを夢見ています。

 日本のどこかで、あなたを待っている人がいます。厳しい時代だからこそ、誠実に関わることができますように。

 今日も良い1日でありますように。

 


ああ 日本のどこかに
私を待っている 人がいる
(いい日旅立ち 山口百恵)

 

#コロナ4Cチャレンジ

 

5月予定のオンライン・イベントです。

2020年5月19日(火)午後6時15分接続開始、午後6時30分から8時30分予定

新型コロナ・ショックに備えて最強のチームを作ろう ~Vol.2 誰かの支えになろうとする自分自身の支えを知る
第2回のテーマ:「誰かの支えになろうとする自分自身の支えを知る」

 本シリーズ1回目では、新型コロナウイルスの影響で抱えている苦しみについて考えていただくとともに、参加者のみなさまが、苦しむ誰かのためにどのようなことができるのかを考えていただきました。第2回の今回は、「苦しむ人の力になろうとする私たち自身の支え」について学びます。(第2回からのご参加も歓迎です)

詳細はこちら
https://4cteams-2.peatix.com/

2020年5月20日(水)27日(水)それぞれ午後6時15分接続開始、6時30分から午後8時30分予定
#1 対人援助の感性を磨く:2020年度対人援助にかかわる人のための心を学ぶ講座
2020年度 対人援助にかかわる人のための心を学ぶ講座

詳細はこちら
https://kamioookashinri1.peatix.com/

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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