<見えないものに気づくために、私たちが気をつけること>

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 どのような境遇にあったとしても、私たちは現場で学び続ける事ができます。学ぶことは、何も学校に行き、教科書を読み、先生の話をノートに書くことだけではありません。社会人になっても、それぞれの現場で何かに気づき、学びを深めていくヒントは溢れています。

 私は人を相手に仕事をしてきました。さまざまな困難や苦しみを抱えていた人が、笑顔にあり、気持ちが穏やかになるために求められる知識や技術や態度は、きわめて多岐にわたります。

 これ以上の積極的な治療が困難となり、徐々に体の変化が進んでいく苦しみを抱えた人がいます。その人に、採血結果や画像診断など、病状についてどれほどわかりやすく説明しても、苦しんでいる人が穏やかになれるとは限りません。

それでも、その人が大切にしてきた生き方やふるさとの話題になると、不思議に顔の表情が穏やかになっていきます。

 どこで生まれたのでしょうか
 終戦のときにはどこにいたのでしょうか、
 人生で輝いていた時代はどこで何をされていたのでしょうか

 このような話を伺ううちに、47都道府県のお国自慢、戦時下の流行歌、それぞれの人生で学んで来た教訓などを教えて頂きました。私は、この仕事の魅力は、出逢う一人一人から学ぶ機会を与えられていることにあると感謝しています。

 先日、若い報道カメラマンとオンラインで話す機会がありました。カメラで仕事にするということは、レンズを通して、現場で起きているさまざまな出来事を映像として記録し、メディアという媒体を通して伝えることです。さまざまな事件や自然現象、あるいは記者会見などの映像は、離れた場所で暮らす人でも、現場の様子がリアルに伝わってきます。しかし、伝わるのは目に見えることだけではありません。

 目に見えないもの映像に捉えたいと考えたならば、どうしたら良いでしょう。目に見えないものの代表の1つは、風です。風は、一般的に空気の移動ですから、目には見えません。しかし、風は目に見えなくても、水面のさざなみ、枯れ葉が舞う様子、木々が大きく揺れる様子、傘が飛ばされないように両手でしっかり握りしめる様子などは、風の大きさを映像で伝えることができます。

 人の苦しみは、目に見えにくいことがあります。とくに他人に心配をかけたくないと思っている人は、たとえ苦しくても、苦しい様子を見せようとはしません。いつも気丈に振る舞おうとします。いくら私が、心を込めて、今つらいこと、苦しいことはありますか?とたずねたとしても、いいえとくにありませんと、笑顔で返されることがあります。

 そのようなとき、苦しみはありますか?とたずねるのではなく、「イライラすることはありますか?」「悲しい気持ちになることはありますか?」という具合に、マイナスの気持ちを伺います。もし、あると答えたならば、苦しみに気づくヒントとなります。

「イライラすると思う理由はどこにあるのでしょう?」
「悲しい気持ちになるのは、どのようなことからでしょうか?」

 イライラする理由は、一人でトイレに行けなくなったから。本当は自分一人でトイレに行きたいのに、家族の世話にならないといけない。夜中に家族を起こしてまでトイレに行くことがつらい。なんでこんな体になってしまったのだろうか。

 悲しい気持ちは、もうすぐこの家族とお別れしてしまうから。もう治療ができないのです。あと1年すら生きているかわからない。せめて子どもが20歳になるまでは生きていたいのに、成長を見守ることができないなんて、母親としてこんな悲しいことはありません。

 マイナスを表す気持ちの背景には、こうでありたいという希望と、実際には思いとおりにならない現実の開きが隠されています。ですから、気づきにくい苦しみ、目に見えにくい悲しみを知る手かがりとして、その苦しみや悲しみによって起こる気持ちを表す言葉を大切にしています。

 果たして私たちは、周囲の人達の苦しみに気づいているでしょうか?コロナ騒動の中、苦しみを我慢している人は少なくありません。気づきにくい苦しみに気づく感性を磨きたいと思います。

 そのためには、何気ない言葉や態度に含まれる希望と現実の開きに意識をあてていきたいと思います。すると、何気ない歌の中にも、“女心のみれんでしょう”という苦しみに気づくことでしょう。(いかん、いつの間にか、歌ネタに流れてしまった…)


着てはもらえぬ セーターを
寒さこらえて 編んでます。

(北の宿 都はるみ)

#コロナ4Cチャレンジ

 

小澤 竹俊

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