コラム6:私は、もうそこから逃げない!
医療法人社団鶴友会 鶴田病院 薬剤師 大野 瑞穂さま
(JSP第2期生、認定エンドオブライフ・ケア援助士)
私は薬剤師として病院で勤務しています。当院には緩和ケア病棟があり、人生の最終段階に向かう患者さんを担当することがあります。患者さんと関わる中で、私も患者さんやご家族の方の苦しみに直面します。しかし、入職当初の私はどう対応して良いかも分からず、その苦しみに向き合うことから逃げていました。
そんな時、私は乳がんの患者さんの担当となりました。Fさんは過去に薬の副作用で苦しんだ経験があり、薬に対しては特に詳しく説明してほしいと希望されたため、私は頻繁にFさんの部屋を訪れました。次第にFさんとの距離は縮まり、薬のことだけでなく、世間話や昔話もするようになりました。気づくと内縁の夫であるUさんともお話するようになっていました。Fさんと私は母親と娘ほどの年齢差があり、Fさんは私を娘や人生の後輩といったように可愛がってくださいました。
徐々に病状が進行し、私はFさんやUさんから不安や苦しみを訴えられるようになりました。また、お話を伺っていると、Fさんがふと暗い表情になることに気づくこともありました。私はFさんの力になりたいと思う反面、精神的なケアは医師や看護師がするもので、薬剤師がすべきではないと思っていました。その上、自分が何をすれば良いのか、誰に伝えればFさんを助けてくれるのかさえ、当時の私には分かりませんでした。
このままではいけないと思い、ある看護師さんに相談すると、「患者さんやご家族に寄り添える存在が薬剤師であったとしても何もおかしいことはない。その人はあなたを必要としているのだから、傍にいて話を聴いてあげて。」と言われたのです。私はFさんの苦しみに向き合おうと決めました。ただ話を聴き、時には一緒に泣くことしかできませんでした。しかし、Fさんが最期を迎えられた後、UさんがFさんとの思い出話をしてくださり、感謝の言葉をいただきました。このとき、苦しむ人は誰かを必要としており、もし私を必要としてくれる人がいるのなら、私はその人の支えになりたいと心から思いました。
苦しむ人の支えになるためには、その人との信頼関係が重要だと思います。私は患者さんと関わる時間は短く、信頼関係を築くことは難しいと感じることもあります。しかし、薬を通して築いた患者さんやご家族との繋がりを、強く実感することもあるのです。このように、関わる皆が専門的な能力を発揮しながら、各々の方法で信頼関係を築いているのだと思います。それは誰でも苦しむ人にとって聴いてくれる人になれる可能性があるということではないでしょうか。つまり、関わる全ての人が人生の最終段階を迎えた人への援助を行うことができるのです。
苦しむ人にとって援助を行う人は誰であっても良いということを、私は患者さんと看護師さんに教えていただきました。そして、私は「エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座」の前身である「JSP講座」がきっかけで、患者さんに向き合うことにも自信がつき、患者さんとの関わり方も大きく変わりました。その上、同じ志を持つ仲間に出逢うことが出来ました。以前の私のように自分にはできないと思っている人に、私はそうでないことを伝え、解決が困難な苦しみを抱えた人と向き合うことに自信が持てるように支援できる存在になりたいと思います。もし、関わる全ての職種が苦しみを抱えた人に逃げずに向き合い、援助を行うことができたら・・・想像するだけで心が温かくなります。私も同志の一人として、日々精進したいと思います。
※写真は、担当していた患者さんの誕生日にマジックを披露したときのものです。上司の影響もあり、入職時から私も少々マジックの勉強をしていました。この上司こそ私に緩和ケアを教えてくれ、患者さんと向き合うことをいつも応援してくれた方です。
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