エンドオブライフ・ケア協会
小澤 竹俊
新型コロナウイルス感染のため、イベントを自粛する動きが広がりました。しかし、何年もかけて準備をしてきたイベントをわずかの間で中止を決めるのは、とても勇気のいることです。
今まで広告にかなりのお金をかけてきたこと、いろいろな人の協力をお願いし、イベントを楽しみにしている人が相当数いることがわかっています。イベントを行えば、投資したお金を回収し、これからの活動費をまかなえることもわかっています。
もし、イベントを中止すれば、多額の負債を抱えなくてはいけません。頭では自粛をしなくてはいけないとわかっていながら、その判断をためらうことは自明です。今のオリンピック開催も同じような構造と考えます。
このような計画を断念する判断を決断しにくい背景には、「損失回避」という行動経済学で呼ばれる現象があります。
ここで、1つの問題をだします。みなさんは、どちらの選択肢を選ぶでしょうか?
問い コインを投げて表が出たら2万円もらい、裏が出たらなにももらえないという選択肢と、コインを投げて表でも裏でも、確実に1万円もらえるという選択肢があります。あなたはどちらの選択肢を選びますか?
もし、このゲームを100回も行えば、確率論からいえば、どちらを選んでも、結果的には同じ結果になります。しかし、実際には、多くの人は、表が出でも裏が出ても確実に1万円もらう選択肢を選びます。こちらの選択肢の方が嬉しいと感じるからです。
では、次の問いはいかがでしょうか。
問い コインを投げて表が出たら2万円支払い、裏が出たら支払わなくても良いという選択肢と、コインを投げて表でも裏でも、確実に1万円を支払うという選択肢があります。あなたはどちらを選びますか?
この問いの場合、コインを投げて表でも裏でも確実に一万円を支払う選択肢を選ばない人が多くなります。確実に1万円を失うことが悲しいと感じるからです。このように、確率的には同じ結果となる選択肢であっても、確実に失うことをより悲しいと考え、その選択肢を選ばない心理を「損失回避」と言います。
一般的に、何かを判断するときにおいて、今のままでよいという現状維持を基準とします。去年までやっていたので、今年もこれで良いであろうと判断します。新しい何かを取り組むと、良い面よりも良くない面(リスク)もあるから、なるべく避けようという心理が働きます。いわゆる事なかれ主義の考えです。
天下泰平の世の中であれば、今までと同じことをすればそれほど大きな間違った判断はしなくてもよいでしょう。しかし、津波の被害を防ぐため、急いで逃げる指示を出すように、火急の判断をしなくてはいけないとき、今は困っていないからと、現状維持で良いと判断を先送りすると、厳しい未来が待っています。震災の被害にあったいくつかのケースでは、有事の判断ができなった教訓として学ばないといけません。
人生はきわめて不条理です。なるべく苦しみから避けることができれば安心です。しかし、どれほど努力しても、思うようにならない現実が待っています。
これは何かの間違いだ。きっと悪い夢を見ているだけで、明日になれば、いつもの社会に戻っているはずだ。
しかし厳しい現実はいつまでも目の前に横たわたっています。
たとえ厳しくても、不条理な現実を認めなければ、人生は始まりません。泣いても笑ってもたった1回の人生です。うまくいかなくても、振り返ってみて本当の幸せを手にいれているかもしれません。まずは今ある困難を認めた上で、最善を考えて行きたいと思います。
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