コラム67:私の作業療法実践を支えるエンドオブライフ・ケアの学び
清藤クリニック クリニックマネージャー 野尻明子さま
(ELC第5回生、認定エンドオブライフ・ケア援助士、認定ELCファシリテーター)
現在、私は作業療法士(OT)として、クリニックの他にも、特別養護老人ホーム、刑務所(高齢受刑者への健康運動指導)などで働いています。作業療法は、身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の作業(生活行為)に困難が生じている方に治療や援助を行います。
先日、特養でこのようなことがありました。施設の絵手紙教室に参加した90代のAさん「うまくできなかった」と出来上がった作品をみて不満顔です。するとスタッフが「そんなことないですよ!上手ですよ!」とあわてて励ましました。Aさんは下をむいて「ぜんぜんだめ・・・」また別のスタッフが「うまいじゃないですか~」とほめるとますますうなだれて下を向いてしまいました。そこで近づいて声をかけました。
私「うまくできなかったと感じてるんですね」
Aさん「そう・・・もっと前はちゃんと描けていた・・目もよくみえんし、手も思うように動かない・・・」
私「そうですか、目もよくみえんし、手も動かないから、思うように描けないんですね」
Aさん「そうなんですよ・・・描くのは好きなんだけど・・・」
私「好きなんですね、だから一生懸命いい顔で描かれていましたよ、Aさんの真剣なお顔をいいなと思ってみてましたよ」
Aさん「そうですか・・・」と、顔が少しあがりました
私「たくさん色をつかって工夫されているところが好きですよ。色の組み合わせがいいですね。」
Aさん「そうですかね…」と、うれしそうな顔をされました。
私「線や色がにじんでいるところが、あじわいだと思います。このにじみ具合が絵手紙らしくて、いいですね」
Aさん「そうですか…ありがとう、また来ます!」とそういって笑顔で帰っていきました。
このやり取りをみていたスタッフと、マイナスの感情もまず受け止めるという話をしました。反復するのは、わかってもらえたと相手に思ってもらうためなのだという話をすることができました。ELCで学んだ『苦しんでいる人は分かってくれる人がいるとうれしい』を実践し、伝えることができた出来事でした。ELCでの学びは、まず聴くことの実践、そしてそのことを他の人にもきちんと伝えることという実践につながったと思います。
作業療法教育では、終末期、緩和ケアについての系統的な教育カリキュラムがなく、それぞれのOTの自己研鑽にゆだねられてきました。そのため多くのOTが“これでいいのだろうか”という不安を抱えていました。そこで終末期医療、緩和ケア、がんリハに関わる作業療法士の情報交換、情報共有、研鑽を目的として、2010年に〈終末期・緩和ケア作業療法研究会〉の発起人の一人となり会を立ち上げました。この会の研修会でも小澤先生には講師として大変お世話になりました。2008年に出版された小澤先生の「苦しむ人から逃げない! 医療者のための実践スピリチュアルケア」は、私たちに何ができるのか、何をしなければいけないのかが示された貴重な1冊でした。そしてこの本のタイトルにある“苦しむ人から逃げない”は、私の大切なキーワードになりました。
作業療法学生を対象とした講義も、作業療法士を対象としたものも、常に“苦しむ人から逃げない”ためにどういう私たちでなければならないのかを少しでも伝えたいという思いでやってきました。
作業療法は、人々ができるようになりたい、できる必要がある、できることが期待されているなど、その人の人生に意味のある作業を可能にするために、人や環境に働きかけます。このことは、支えをキャッチして支えを強めるというELCでの学びと本質的に同じものであると感じています。
これからも私自身がよい援助者であるように学び続け、またよりよい人材が増えるための一助になるような活動を続けていきたいと思います。
エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。
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