コラム70:~患者と医療従事者が苦しみを理解することによって厳しい医療現場を乗り越えていくかすかな希望~

  • 人材育成
  • 希望
  • わかってくれる人がいるとうれしい

石井大心さま

(ELC第77回生)

 私は新潟県在住で、デュシェンヌ型筋ジストロフィー症という病気を抱えています。呼吸する力や心臓を動かす力や飲み込む力が弱くなっていく病気です。現在でも平均寿命は30代前半と言われています。入院生活の中で医療従事者が心の声を聞くことが苦手なことを痛感していたので、医療従事者がどうやったら心の声が聞けるのかと思い考え続けていました。

 

 そんな時、小澤先生を知りました。『プロフェッショナル 仕事の流儀』を見た時でした。医療従事者は患者さんにしなくてはいけないケアが山積みのようにあるので、心に寄り添うケアができなくなっている実情がありました。医療従事者が余裕を持って患者さんの心に寄り添えるケアを実現するにはどうしたらいいか悩んでいました。医療従事者と患者さんがお互いに理解できる存在になれば、心に寄り添う医療を提供できるのではないかと思いました。そんな希望を描いていました。それができれば、治らない病気でも穏やかに過ごせるとかすかな希望を持っていました。

 

 私は決して医療従事者を責めたいわけではありません。医療従事者は命がけで私たちに生きるための医療を提供してくれているのです。大前提として、私は医療従事者に対して感謝しているのです。ありがとうございます。

 

 だからこそ小澤先生の集合学習にも参加したかったですが、私は入院生活をしているので外に出ることは出来ませんでした。羨ましい気持ちもありましたが、小澤先生が書いた本を読んでいるとなんだか繋がれているような気がしましたし、支えてもらっていました。

 

 プロフェッショナルで見た、小澤先生や千田さんは私にとって理想とする医療従事者でした。私は患者として患者さんに寄り添える医療従事者を育てていきたいと思いました。小澤先生が出版した本を全て読みました。毎回、私の人生観を変えてもらいました。

 

 特に大好きだった本は、『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』です。皆さんもご存知だと思いますが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー症は心臓の収縮する力が普通の人の1/3しかありません。いつ心臓が止まってもおかしくない状態です。

 

 未来を考えれば考えるほど希望を持つことができませんでした。けれど将来のことはどんなに考えても答えは出ませんでした。その時に今日という日を最後だと思って命がけで生きていれば、命を失ったとしても後悔なく納得して生きることができると思うことができました。小澤先生ありがとうございます。

 

 私は患者としてたくさんの苦しみを味わってきました。だからこそ医療従事者に余裕を与え心の声を聞けるようになってほしいと思っていました。ですが医療従事者からは「あなたの言っていることは綺麗事に過ぎない。理想論にしか過ぎない。」と言われました。後から言い過ぎてしまい申し訳なかったと言ってくれました。 それから私に対して心に寄り添ってくれる対応をしてくれました。嬉しかったです。私は学びました。

 

 医療従事者に戦いを臨んで行ってもダメなのです。医療従事者の苦しみを私がキャッチしなくてはいけないと思いました。私が入院している病院は神経内科の病棟です。デュシェンヌ型筋ジストロフィー症はこの10年で平均寿命が延びました。人工呼吸器の徹底的な管理と、心臓を守る温存療法により平均寿命が延びました。それはとても嬉しいことです。

 

 けれど、平均寿命が伸びるということは医療度が高い患者さんが増えるということです。どうしても医療従事者にとって抱えきれない業務量になってしまいます。患者さんにゆっくり話を聞く時間すらありません。休憩時間も取ることができない。時間外勤務も当たり前。看護師さんは疲弊していました。

 

 私はこの時知りました。頑張っている人にこれ以上頑張れとは言えないと思いました。

 

 人工呼吸器をつけてくれること、薬を入れてくれること、車椅子に乗せてくれること、お風呂に入れてくれること、ご飯を食べさせてくれること、一つ一つのかけがえのないケアを感じているうちに私は医療従事者に支えてもらっていることに気が付きました。それ以上看護師さんに求めることはしないように心がけました。なぜならこれ以上看護師さんが疲弊し離職されてしまったら私たちは生きることができなくなるからです。

 

 私は医療従事者の余裕のなさを感じ、心に寄り添うケアを諦めざるを得ませんでした。よく考えてみると、医療従事者は私の命をつなぐために命がけでケアしてくれているのでその支えを大切にして自分自身の力で生きていこうと思いました。けれど一人で抱え込むことはとても苦しかったです。

 

 今年になって転機が訪れました。 それは新型コロナウイルスです。小澤先生の講義やイベントが中止になりました。患者として不謹慎ですが、私はチャンスだと思っていました。そんな矢先に、私が受けたかった集合研修がオンラインにてできるようになったのです。私はとにかく応募しました。今年の7月に初めて参加することができました。涙が出るほど嬉しかったです。

 

 講義では、反復や沈黙や問いかけを教えてもらいました。ファシリテーターのみなさんのおかげで有意義な時間になりました。私にとっては事例検討が一番難しかったです。小澤先生の講義に納得していないわけではなく、患者さんの支えを強めるためにどうしたらいいのかもっと深く考えてみたいと思いました。だからこそ8月の下旬にも受講することにしました。

 

 1回目に受講してから、私は医療従事者に対して声掛けすることが多くなりました。共感できていますか。苦しみを理解しようとしていますか。患者さんはどんな気持ちでいると思いますか。タメ語を使うと患者さんはどんな気持ちになると思いますか。と同じ目線で伝えるようにしました。

 医療従事者も経験が少ないうちは、実感をもって理解することは難しいかもしれません。だからこそ今から優しく丁寧に教えることによって、心に寄り添える医療従事者が増えて欲しいと願っています。

 

 これからは、医療従事者と患者さんが助け合って支え合うことによって、お互いが苦しみを理解しようと話を聴き、相手からみてわかってくれる人になることで支えを強め、新しい医療を提供できるような気がします。患者さんは医療従事者に任せきりになってはいけないのです。患者さん自身も自分の病気に関心を持ち、一度だけの人生を穏やかに生きられるように医療従事者と検討していくことが大切だと思っています。まだまだ分からないことばかりですが、皆さんと関わることによって患者として人として成長していきたいと思います。

 

 これからも『だいちゃん』をよろしくお願いします。

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