コラム74:家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ 虐待してしまうプロセスを断ち切りたい~家族による高齢者虐待を防止する活動を求めて~

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特定非営利活動法人となりのかいご 代表理事

川内 潤さま

(エンドオブライフ・ケア協会会員)

-コロナ禍で、介護を必要とする方とその家族のあり方が変わってきていると伺います。川内さんは、企業から委託を受け、従業員のうち家族介護にあたる方からの相談支援等に携わっていらっしゃいますが、まずは、なぜそのような活動をするに至ったのか、きっかけを教えてください。

 

 以前、私は訪問入浴という寝たきりの方のご入浴をサポートする仕事をしていました。そこで、要介護の家族に手を上げるまで追い詰められた家族を幾度も目にしました。「虐待に至る前に何かできることはないか」と、介護する人への支援の必要性を強く感じ、2008年「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」をミッションに、「となりのかいご」を市民団体として立ち上げ、2014年にNPO法人化しました。

 

-介護を必要とする方のご家族が、手を上げるまでに追い詰められた状況を、川内さんは実際に目にしてこられたということですね。そして、追い詰められるに至る前に、何かできないかということで、ご家族の相談支援を始められたのですね。「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまう」というのは、どういうことでしょうか?

 

 介護というのは、生活の延長線上で起きるもので、いつの間にか関わりを始めていきます。例えば、食事の準備や買い出し、休日昼間の見守りなど、介護をしているという認識がないままに関わりを深めていき、大切な家族だからこそ、なんでもやってあげてしまう。ゆっくりのペースでがんばれば、まだ自分でテレビのリモコンを取ることができるのに、先回りして取ってあげてしまう。この「やりすぎ介護」状態が、介護量をどんどん増やしていき、心身ともに疲れていきます。「外部のサポートを頼ろう」と考えても、介護保険サービスを利用するには、申請から認定が下りるまでの一カ月半以上待たなければならず、サービス利用を諦めて介護をさらに抱え込みストレスが蓄積して、ふとした瞬間に手を挙げてしまうのです。重要なのは、家族を大切に想えば思うほど、このループにはまりやすいということです。

 

-よかれと思って、なんでもやってあげてしまう。知らず知らずのうちに自立を奪ってしまう。人に相談もできないまま、ストレスから手を上げてしまうことがあるのですね。そのような方がいざ相談となるとハードルが高そうにも思えます。川内さんは、どのような形で相談を受けていらっしゃるのですか?

 

 メインの活動は、複数の企業からの依頼を受け、従業員に向けて、介護離職予防を目的とした介護セミナー・個別相談、社内介護アドバイザーとして介護情報発信(コラムや介護ガイドブック作成)などを行っています。 

 企業で活動するきっかけは、自分が参加したセミナーの講師から、プライベートな介護相談をいただき応じたことで、私がその企業で介護セミナーを開催する機会を得たことでした。そこで、仕事と介護の両立に苦戦する人たちを目の当たりにし、「この人たちへの支援こそが、追い込まれた末に起きる大切な家族への虐待を止めることができるのではないか」と、自分がやるべき活動の点と線が繋がったのです。

 

-仕事と介護の両立を支援することで、家族の介護を理由に離職してしまうことを防ぐ活動なのですね。介護離職予防は、従業員本人にとっても、大切な従業員を失いかねない企業にとっても、重要な施策となりますね。一方で、この施策が、高齢者虐待とどのように結びついているのでしょうか?

 

 介護離職をしても介護される要介護者が望む介護に繋がるとは限らず、心理・距離的に近くなり過ぎることが、虐待を招くと考えています。たとえば、卵ばかりを買ってくる母親を見守る息子さんが、何度も出かけようとする母親を部屋に外カギを付けて閉じ込めてしまう。転びやすくなった父親の歩行を助けてきた娘さんが、自身が仮眠をとる間はベルトでベッドに縛り付けてしまう。心身ともに疲れ判断力が落ちる中で「目を離すと危ない」という想いから、このような行動制限をかけたり、怒鳴ったり、手を挙げたり・・・仕方なく虐待に至ってしまうのだと思います。

 

-介護離職を予防することで、虐待のリスクを減らしたいのですね。コロナ禍で、介護相談の内容や件数に何か変化はありますか?

 

 コロナ禍では、地域の趣味の集まりの休止や感染への恐怖から、高齢者が閉じこもりがちとなりました。閉じこもりが長期化したことで、足腰が弱くなったり、記憶力の低下が進行し、ついには生活に支障が出てきた結果、「離れて暮らす親に急に介護が必要になりました」という相談が増えてきました。また「親の生活が心配なので、実家からテレワークを考えています」というケースも出てきました。相談件数としてはコロナ前から10%程度増えており、キャンセル待ちとなるケースも増えてきました。

 

-個別の企業と従業員を支援することがますます求められている一方で、より広く、この取り組みを普及していくことなども行っていらっしゃるでしょうか?

 

 仕事と介護を両立する方法を自著や法人のサイトなどでも発信しています。令和2年度は、厚生労働省の「ケアマネジャー研修 仕事と介護の両立支援カリキュラム」の検討委員として、国の施策に関わる機会をいただきました。

 虐待防止を目指し、企業での介護相談を立ち上げたことで、ご家族からじっくり話を聞く機会をいただいております。できる限りご家族としての想いを引き出し、ケアマネジャーの皆さんと共有させていただきながら、より良い支援を目指していきたいと思っております。

 

-介護にあたるご家族が、いつかはご本人を見送る日を迎えることを念頭に置いたときに、川内さんとしては、ご自身の活動は、ご家族にとって、中長期的にどのような意義があると考えていらっしゃいますか?

 

 「親孝行」というと、介護が必要な親にどれだけ多くの時間を費やすか、を目標とする方がほとんどですが、介護が必要となった親が、自身の子どもの生活を犠牲にしてまで、介護に関わってほしいと本心で願うことがあるのでしょうか。本当の意味での親孝行は、それまでの親子の距離感を保ちながら、親の生き様からメッセージを受け取り、活かしていくことではないかと考えております。親の介護や死に悩むご家族とともに「何が親孝行となるのか」を、専門職として一緒に考えていきたいと思います。

 最近は「看取り後の介護の振り返り」に関する相談も増え、そこでいただく涙ながらの感謝の言葉に、この活動の意義を改めて感じています。要介護者にとって自然で穏やかな「死」を迎えることができるよう、エンドオブライフ・ケア協会様より、多くの学びを得ることで、要介護者の想いに寄り添った結果、その家族のニーズに応える支援を続けていきたいと思っております。

 

<リンク>
NPO法人となりのかいご | 誰もが自然に家族の介護に向き合える社会を目指して
ケアマネジャー研修 仕事と介護の両立支援カリキュラム

 

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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