コラム79:優しい言葉と違和感の理由

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奥田里絵さま

(ELC第96回生)


「大丈夫だよ」

乳がんが見つかったと告げた時の夫の第一声。

「ありがたい言葉…のはず。だけどなんで?何がどう大丈夫なのか教えてよ!って言いたい自分がいる。
でも…私のためを思って言ってくれている言葉だし。
こんなことを思う自分の方が間違ってるのかな?」
心の中で押し問答が始まった。

私のための励ましの言葉。優しい言葉。
なのに、なぜだか違和感しかなかった。

病院で「早期に発見されて運が良かったですね」と言われたときにも、家族に「たいしたことないから心配ないよ」と言われたときにも感じた違和感。

治療を受ければ治ることは頭では分かっている。だけど、なんでこんなに違和感ばかり感じるのだろう?みんな私のことを心配して励まそうとしてくれているのに。


最初は「生きる理由」が知りたくて小澤先生の著書に出会い、そこからエンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座の存在を知った。医療にも介護にも携わっていないただの主婦であることに気が引けたが、講座へ申し込みをさせていただいた。

その時点では、自分が患者の立場になるなんて思ってもみなかった。乳がんであることが分かったのは、講座へ申し込みをしてから数日後だった。

患者の立場で受講するのは気が進まなかった。治療を受けるとき、話を聴いてもらえるのが当たり前だと期待してしまう気がしたからだ。でも励ましの言葉に感じた違和感の原因をどうしても知りたくて、このタイミングで受講させていただくことを決めた。

私にとっては勇気のいる決断だったけれど、参加して本当に良かったと思う。「違和感」の正体が分かった気がしたからだ。違和感、それは私の「不安だ」とか「怖い」とかいう感情にふたをされてしまったことからきていた。みんなの励ましの言葉の前に、私の感情は置いてきぼりで宙ぶらりんだった。

小澤先生のお話や実習を通して、人の気持ちや感情を「ただ受け止める」ことがどれだけ難しいことなのかに気づくことができた。不安な気持ちを分かってもらえない経験をした後だからこそ、小澤先生が繰り返し伝えて下さった「苦しんでいる人は自分の苦しみをわかってくれる人がいるとうれしい」という言葉をより強く実感できたとも思っている。


この言葉の中にすべての答えが見つかった。そう感じている。そして何より私自身が救われた気持ちになった。

ともすれば人の気持ちを自分のモノサシではかり、先回りして人の感情を想像してしまう。
そういう自分の「人の話を聴く態度」に気づけたことも大きな収穫だった。気づけるかどうかが大きな差なのだと思う。そして気づくためには誰かの助けや支えが必要だ。

小澤先生や2日間支えて下さったファシリテーターの皆さま、一緒に実習をして下さったチームの方々には感謝の気持ちしかない。様々な分野で活躍されている参加者の方々の様々な意見を聞けたことも私の宝物となった。

今回の経験を独り占めしておくのはもったいない。
さて、治療が終わったらこの経験をどうやって何に生かしていこうか。
今はそれを考えることが楽しみのひとつだ。 泣いても病、笑っても病なら、私は笑っていたい。 そしていつか誰かの苦しい気持ちに寄り添える、そんな人間になりたいと心から願っている。

 

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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