医療法人協和会 リハビリテーション職
蛭子文弥さま
(ELC第102回生)
「もう年だから。早く迎えにきてほしい。」
「これ以上しんどい思いをしながら生きていても仕方がない。」
病院で働いていると、しばしば耳にする言葉です。
このような言葉を聞いた時、何と言葉を返しますか?
私は理学療法士としてケガや障害を持った患者様に対して身体機能の回復を図り、社会復帰できるよう支援を行っています。その中で障害を受容することができず、辛い気持ちになり、先程のような言葉を吐き出す方達がいます。私はそのような方達に対して、「そっか、しんどいですよね。でも、昨日までできていなかったことができるようになりましたよ。少しずつ良くなっていますから、今日も一緒に頑張りましょう!」と言葉をかけていました。
「その人らしい生活」「その人らしさを尊重する支援」
病院で嫌になる程耳にします。「自分らしい生活」とは何でしょう。
患者様ができるようになっているけど気づいていないことを見つけ、称賛し、自信をつけてもらうこと。障害を受け、生きる力が弱くなってしまっている患者様に理学療法士として寄り添う中で必要なことだと思っていました。そうして関わることでリハビリに対して意欲的に取り組むことができ、1日でも早く「自分らしい生活」を送ることができるようになれると思っていたからです。
そのため、私にとって「死」とはマイナスの言葉でしかなく、患者様に想起させてはいけない言葉でした。私にとって「死」とは、不安で、苦しく、怖いものでした。そして、それはきっと患者様も同じだと思っていました。ですが、そうではないと実感した出来事があります。
その方(A氏)は90代で直腸癌と診断を受けました。息子を若くして直腸癌で亡くしており、身寄りは義娘だけでした。治療とリハビリを受け、義娘の自宅へ退院することとなりました。退院前日、A氏は私にこう言いました。
「遺書を書きたいんです。」と。
以前の私であれば、きっとこう言ったことでしょう。
「明日退院できるんですから、もっと楽しいことを考えましょう。やりたいことや楽しみなことはありますか?」と。
ですが、自身の死について向き合っているA氏に対し、私もしっかりと向き合うべきだと思いました。話を聴き、反復しながら問いかけました。「どうして遺書を書きたいと思ったのですか?」
すると、A氏は言いました。
「今まで血も繋がっていない私のために義嫁は本当に良くしてくれた。だから、義嫁の為に少しでも遺産を残してやりたいんです。年寄りの私にできることは、あとこれくらいだから。」
A氏は遺産を残すことで、義嫁の役に立つことができると感じていました。それが、A氏の生きる強みになっていたのです。私はA氏と話し合いながら、遺産を相続する為にできるだけの支援をしました。すると、A氏はにっこりと笑みを浮かべ、「ありがとう。あなたに相談して本当に良かったです。」と私の手を強く握りました。
私はこの方から、死に向き合うことは必ずしも後ろ向きなことばかりではないことを学びました。そして、「死んでしまいたい。」と話す方達の中にも同じように支えがあることも学びました。
そう気づくと、私にとって「死」は避けるべき言葉ではなく、向き合うべき言葉だと思うことができるようになりました。
「自分らしく生きる」ことは「将来の夢を持つこと」
「自分らしく生きる」ことは「支えとなる関係を知ること」
「自分らしく生きる」ことは「自分で選ぶことができること」
私は、これからも「自分らしく」生きる人の支えになりたい。
死に背を向けず、しっかりと向き合っていきたいと思います。
最期を向かえるその日まで、「自分らしく」生きるための支援をこれからも続けていきたいと思います。
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