浅井東診療所 医師
大西規史さま
(ELC第105回生)
私は昔から自分のことがあまり好きではありませんでした。
走るのも遅く、勉強も苦手。恵まれた家庭に生まれ、たくさんの愛情を受けて育ったにも関わらず、自分で自分のことを認めることができませんでした。 周りには常に優秀な人がいて、いつも羨ましく思っていました。「すごいお医者さんにはなれないだろうけど、優しいお医者さんを目指したい」そんなネガティブにもとれる想いで医師を目指しました。
出来は悪かったけど、たくさんの支えのおかげでなんとか医師になることができたので、一生懸命働きました。病院に泊まり込み、朝まで集中治療室に張り付くことは素敵なことだと感じていました。 寝不足の体にムチを打ち「もっとたくさん勉強しないと」と何年経っても焦るような気持ちで本を読みあさり、そして足繁くベッドサイドに通いました。
最近ではコロナ禍になり、各種セミナーがwebで受講できるようになりました。この環境はさらに私を焦らせ「このセミナーも受けとかないと」と、とにかく手当たり次第に学びの機会に飛び込みました。しかし、どれだけ勉強しても「やっぱり患者さんの力になれていないのでは?」と不安は拭いきれません。
スキルアップ自体は素晴らしいこと。しかし、「もっとスキルを磨かないと認められない」そう思っていると、そのままの自分から逃げている。今のままではダメだと決めていることにもなる。スキルアップに目が向きすぎているとき、そのままの自分で受け入れられ、愛されることから逃げていないか?
お客さんは、アイドルの訓練を重ねた歌を聴きたいのではなく、その笑顔を見たいと思っている。歌唱力などの技術より、売りはその人自身のはず。まずはありのままの自分を認めてあげること。自分自身に価値がない、今のままではだめだ、そう思っていると、どれだけ優れた技術を得ていても、その価値は色を失ってしまうかもしれません。
「患者さんのために」この魔法のコトバがあれば私たちはいつまででも学び続けることができます。しかし、その優しさを患者さんだけでなく共に歩み続ける仲間である医療・介護スタッフへ、そして自分自身に向けてほしいと思います。
自己犠牲の上に成り立つだけの医療・介護ではなく、お互いが支え合い、繋がりあうことができる関係性の中で、共に生きていく。これは誰かの支えになっている皆さんへのメッセージであり、何より私自身へ向けたメッセージです。
とは言ってはみたものの、今の私も、自分を認めることは難しいのが現実です。今まで一生懸命やってきたのに急に自分に優しくなんて、どうすればいいかわからないという人もいるでしょう。そんな時、私は「私たちのために」というもう一つの魔法を唱えます。名前はついていなくても、その時、そこにいる私たちは自然とひとつのチームを形成します。私もそのチームの一員です。仲間の存在が私の支えであり、私もまた、仲間の支えでありたいと願っています。仲間と共に“いること”が何ものにも変え難い大切な宝物です。きっとあなたもスキルの有無ではなく、存在そのものが誰かの支えになっているはずです。
あなたは今も誰かとチームをつくっています。
そして、ありのままのあなたが、その誰かを支えているでしょう。
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