薬剤師
野村真実さま
(第27回生)
「あなたより小さな子供でお母さんがいない人もいるんだから、あなたはここまで育ててもらえて恵まれているでしょ」
母が亡くなった19歳当時に言われた言葉。
「子供なんていたら大変なこともいっぱいあるのよ。むしろ羨ましい」
「人は結局ひとりなんだからみんな同じよ」
“あなたたち夫婦には100%子供ができません“と告げられ、自分の生まれてきた意味がわからなくなり、スピリチュアルペインに喘いでいた頃、思い切って“辛い“と言葉に出した時に何度も言われた言葉。
ここまで生きてきて人からかけてもらった言葉はそれこそ星の数ほどあるはずなのに、そんな言葉ばかりが生々しく蘇ります。
―誰もわかってくれない―
そのような思いを抱えながら病院で薬剤師として働いていた私は、患者さんのお話をしっかりと聴くことを心がけていましたが、語りに対して言葉を発することが怖くなりました。どんな言葉も空虚であり、的外れな気がして。
実際に、「あなたなんかに私の苦しみはわからない」と言われたことや、数ヶ月に渡り医師への不満を訴え続けた方のお話を聞き続けてもその方の苦しみは増強するばかりだったことなどあり、無力感ばかりが募っていきました。
2014年に参加した緩和医療薬学会年会で目に飛び込んできたのが、小澤竹俊先生の著書『苦しむ患者さんから逃げない!医療者のための実践スピリチュアルケア』でした。
村田久行先生の村田理論については友人から紹介を受けて少し学んでいましたが、小澤先生の優しく温かい語り口の文章に一気に引き込まれもっと学びたいと思いました。
学びの機会を探っていた2015年末に私は乳がんと診断されました。
職業を通して見えていたがんという病と自らががん患者となった世界は全く異なるものでした。
医学的知識はある程度あるはずなのに未知の世界に放り込まれたように感じ、もやもやとして苦しく、何が現実で何が希望なのかもわかりませんでした。
しばらく悶々としていましたが、ある時、反復と沈黙を用いて自分自身と対話をしてみました。すると徐々に靄の切れ間が生じて自分が何にこだわっているのかが見えてきたのです。その時から訳のわからない苦しさが軽減して、少しずつではありますが何をすべきなのか考えられるようになりました。
治療が一段落した2017年に漸くE L C援助者養成基礎講座を受講しました。集まった方々の熱気に圧倒され、予想とは異なるとてもシンプルな言葉に学びが集約されていることに驚き、シンプルなのに消化できていない自分にもどかしさを感じました。それでも研修後には、苦しむ患者さんと接する時に逃げないように自分を支える力の兆しを感じ、患者さんからご自身の人生や思いについて伺うことが多くなりました。
しかし、病をきっかけに職場外でもがん患者さんなど困難を抱える方とお話しする機会が多くなった私は新たな壁を感じるようになります。
職場という後ろ盾がある医療者としてではなく、素の自分が苦しむ人に相対した時には、その方にとって“わかってくれる人”になれていないと感じることが多くなったのです。
失職してからその思いはどんどん強くなり逃げたくなる自分が優位になったため、2023年1月に援助者養成基礎講座を再受講しました。オンライン受講でしたがELC協会の皆さまの温かさがとても心地よく、私もこのような空気を纏った人になりたい、そのためには学び続けることが必要と感じました。学びのエッセンスは普遍でも、自分自身も相対する人も揺れ動き続けているから。
この文章をここまで書いてきて突如、多くの患者さんの顔や声が涙と一緒に溢れてきました。『わかってくれる人になりたい』と思っている私をわかってくれて『こんな私でも良い』と認めさせてくださった方々。私は失職によりその支えを見失い、職場で育んできた自分の夢も見失ってしまっていたことに気づきました。
支えも夢も無くなったわけではない。
“誰もわかってくれない”と苦しむ人を一人でも減らしたい。
だから私は“わかってくれる人”になりたいのです。
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