コラム106:母の介護、父の看取り、そして穏やかな母の看取りに備えて

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一般財団法人メンタルケア協会やすらぎの介護シャローム 心理職 

土山かずみさま

(ELC第72回生)

 一人ひとりの存在が尊ばれるような温かいメッセージが聴こえてきました。一つ一つの言葉が心の琴線に触れて、思わず手を止めてその方の語りに聴き入りました。相手の思いを聴こうとする生きた言葉の重みと温かさに感動を覚えました。


 それは、2019年4月21日の朝、NHK「日曜討論」を聴きながら両親の介護食を作っていた時でした。この方はどなたなんだろう…という思いから、インターネットを通じて小澤竹俊先生を存じ上げることになりました。

 

 当時私は「心の声を聴く」ということに関心をもっており、両親介護の傍らこのテーマに関連する仕事をしていました。ぜひ小澤先生に学びたいと思い、同年11月受講いたしました。

 

 この学びは2021年に看取った父と家族に穏やかな時を
もたらしてくれました。その半年後と2023年オンライン講座に参加させて頂きました。

 

1.受講に至った経緯

 遡れば3つの背景がありました。

 

 1つ目は、気持ちを表現したり伝えることに苦労した幼少期の体験です。やがて幼児教育学や教育心理学に関心を寄せ、牧師の父と幼児に関わる母の影響も受け、人格尊重や心と魂のケア等の視点からカウンセリングや対話を学ぶようになりました。

 

 2つ目は、両親の介護です。30年前母がくも膜下出血により重度障害を負い、その後も命の危機や断続的な病・怪我を伴いながら現在に至ります。更に母の発病から6年後、父が脳内出血を発症。両親揃って車椅子での在宅介護22年間を経て、父を看取りました。

 

 3つ目は、これら2つに並行して継続してきた仕事です。ひきこもり青年の居場所、訪問介護、訪問相談、施設チャプレン、施設・病院の相談員など、気持ちを表現しにくい人々との関わりを重ねておりました。

 

2.受講を通して

 講座では、苦しみを「希望と現実の開きである」と捉えることで可能となる次の具体的なステップを教えて頂きました。死を前にした人、つまり自分のいのちの終わりが迫ってきていることを知っておられる人の思いをお聴きするとはどういうことなのか?たとえ思いに近づいてお聴かせ頂けたとしても、対話だけで終わらせないためにはどうしたら良いのか?実際に私には何ができるのか?

 

 これらの問いに対して、私も苦しんでいる人にとって「わかってくれる人」になれる可能性があり、死を前にした人が穏やかになれる可能性のある関わり方があることを学び、目の前が明るくなったような気持ちになりました。またオンライン講座では、講師とファシリテーターの方々の温かい関わりや問いかけによって、安心してお互いの状況、取組み、悩みや質問を分かち合いました。

 

3.学びを通した取り組み

 私が今まで母の性格や思考傾向だと思っていたことを一旦取り払い、母にとっての「支え」を知るために真っ白な思いで母の気持ちを聴いてみました。

 

 すると、私には母が頑なに抱え込んでいるように感じられていたあるネガティブな思いについて、母が私にどんな風にわかってもらいたかったのか?に漸く応えることが出来たのでしょう、意外にも母が面白おかしそうに声を挙げて笑い始めたのです。大変驚きましたが、どんな支えがあれば母の気持ちが楽に穏やかになれるのかに気づかされた瞬間でした。

 

 この取り組みを通して、支えを強めるとはその人が心穏やかになれること、それはシンプルに、その人が笑顔になれることなんだ…と心にスーッと馴染みました。

 

4.最後に

 数か月前、小澤先生に学ばれたという在宅診療医に偶然にも出逢わせて頂きました。

 

 その医師は、私が家族として母にどうすることが善いのか揺れる気持ちをよく聴いて下さり、一番大切な事は母がどうしたいのかをよく聴くこと、母が言えない場合はその表情から感じ取り母の気持ちを確認すること、と共に家族の気持ちも大切にしてよいとも仰って下さいます。

 

 眠ったように見えていた母に、医師が穏やかに「また来ますね…」とそのまま数秒間待っておられると、母がスーッと目を開けて「有難うございました」と応えた光景には感動しました。

 

 小澤先生から頂いたサインのお言葉「誰かの支えになろうとする人こそ、一番支えを必要としています」が心に湧いてきます。

 

 長年介護してきた母の看取りに備えている私にも支えが必要であることを実感し、この学びに感謝しております。 

 

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