コラム117:お互いに「ここにいていいんだ」と穏やかになれる看護師を目指して

  • 原点
  • わかってくれる人がいるとうれしい
  • 解決できない苦しみ

酒井優佳さま

(ELC第148回生)

 私は、今年度から看護師人生が始まりました。病棟看護師として勤務しています。

 エンドオブライフ・ケア協会の援助者養成基礎講座に参加したきっかけは、私はもともと「自尊感情」や「いのち」、「死」などにとても興味があり、偶然にも通っていた奈良県立医科大学での小澤先生の特別講演を拝聴し、「もっと詳しく知りたい」と思ったからです。

 このコラムでは、講座を受講してからの私のこころの移り変わりと、講座受講後に臨床現場を振り返り、感じたことをお話したいと思います。

 

 最初に、私のこころの移り変わりについてお話します。

 私は幼いころから、ふとした瞬間に「自分の生きている価値・役割」を求め、それが何か悩んでいました。最初の頃は「私の生きている意味ってなんだろうね」と周りの人に聞いてみたことがありました。今となっては当時の気持ちをはっきり思い出すことはできませんが、私は「明確な答え」が欲しかったわけではなく、「ここにいていいんだ」と思いたかったのかもしれません。しかし、相手にとって「解決できない」かつ、なかなかシリアスな話だったので「そんなこと考えても仕方ないでしょ」、「そんなこと言わないでよ」と言われたことを今も覚えています。当時の私は、相手が苛立っているような印象を受けたので「怒らせてしまった」、「この話をしてはいけないんだ」、「相手にわかってもらえないなら話しても無駄だな」と思い、それ以降は誰かにこの話をすることはなくなりました。  

 

 看護師を志したのは「誰かの役に立ちたい」という思いと、看護学科の説明会で「看護師は人に寄り添う仕事です」と聞いたことです。「誰かの役に立ちたい。自分の役割が欲しい」と強く願っていた私にとって、看護師はぴったりの仕事だと思いました。いざ、入学したのは2020年度。ちょうど新型コロナウイルス感染症が流行し始め、授業が完全にオンラインになってしまいました。新しい同級生にも会えず、ただただ画面越しに授業を受け、レポートを作成するのは私にとって大変な苦痛でした。次第に「私に看護師は向いていないのではないか?」と思い始めました。行動制限が緩和されてからも「果たして私に看護師は向いているのだろうか?」という思いはなかなか消えませんでした。実習に行ったものの、私が求めているような「誰かの役に立てた」などの「私の役割」を見つけることはできませんでした。  

 

 最終学年になって、私は「自尊感情」をテーマに卒業論文を執筆しました。誰にも私の悩みを話せないなかで、ネットでいろいろと検索すると「自尊感情」というキーワードを見つけたからです。そして、卒業論文で「自尊感情を支えるのには、相手が『自分は大切にされている』と感じられること」という旨の結論を得ました。その後、奈良県立医科大学で小澤先生の特別講演ポスターを見かけ、「解決できない苦しみ」という言葉が目に留まり、講演を拝聴しました。結論から言うと、「3時間じゃ足りない。今後の看護師人生のためにもっと知りたい」と思い、エンドオブライフ・ケア協会の援助者養成基礎講座を受講しました。  

 

 講座では、相手の言葉を反復するという方法を学びます。相手の発言に対して「~なのですね」と答える方法です。ペアになってこの方法を練習してみると、心地よく安心にした気持ちになりました。私のセリフは「○○と言ってくださいね」と事前に指示を受けていて、私の言葉ではないのに、です。そして、この感情こそ、「自分は大切にされている」実感に近いのではないかと気づきました。自分が言ったことを否定されない、自分の存在を脅かされないことです。

 

 先述のとおり、私は今も「生きている価値・役割」を求めています。しかし、以前と違うことは、「わかってくれる人」になる術の一つを新たに身につけ、「私もかかわっていく人たちにとっての『わかってくれる人』になりたい」と思えたことです。明確な答えは出なくても、「これでいいんだ」と自分に優しくなれた気がします。

 

 そして、講座受講後に臨床現場で感じていることは、相手を「否定しない、脅かさない」こと、「相手の言いたいことの論点をずらさない」ことの重要性です。

 現時点ではまだ臨床現場に出て日が浅いので、お話しできるのは実習中にかかわった方とのお話になってしまいますが、ある方が「死」について語られたことがありました。しかし、私はどう答えて良いものかわからず、答えに窮してしまいました。今、講座を受講して思うことは、「相手は必ずしも答えを求めているわけではない」ということと、「相手が言葉で伝えてくれた、抱いている感情を丁寧に受け取る」ことです。つい「そんなことないと思いますよ」などの否定の言葉で入ってしまうと「この人は私を否定する」と相手が感じてしまう可能性が高いと講座で学びました。「わかってもらえる」ことが相手にとってどれだけ大きなことかを学生のときに学ぶことができ、これから実践できることをうれしく思います。

 

 ケアする人とケアを享受する人がお互いに「ここにいていいんだ」と穏やかになれる看護師として、これからの看護師人生を一歩ずつ歩んでいきたいと思っています。

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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