DISCIPLE DU BONHEUR オーナー ティーウェリスト協会神戸校主宰・マスターティーウェリスト
田中美穂さま
(ELC第150回生)
私は、紅茶やハーブティーを提供する小さなカフェを営んでいます。また、そこでティーウェリスト協会神戸校の講師として、生徒さんに様々なティーについての知識をお伝えしています。医療や介護の仕事ではない私がこの講座を申し込んだのには、あるきっかけがありました。
それは、ある月刊誌に掲載されていた、小澤先生が著者のお一人でもある『死を意識して生きる希望』という書籍の紹介記事でした。
自分も還暦を過ぎ、これから迎える人生の後半について考え始めていましたし、同じ頃、がんの疑いのあり不安で泣いてばかりのお客さまにどう向き合いお話を交わしたら良いのだろうと考えさせられる機会もあり、すぐにその本を読むことにしました。その本を通して、ユニバーサル・ホスピスマインドという言葉や、エンドオブライフ・ケア協会の存在を知り、援助者養成基礎講座があることを知ったのです。
早速講座の申し込みをしたものの、講座当日まで1ヶ月を切っていました。テキストを読み、eラーニングを進めるうちに当日の対面での受講が不安になってきました。私自身、人生の最終段階の人との関わりの経験がなかったからです。しかしながら、テキストの冒頭に『苦しむ人に関わる全ての職種の人が行うことのできる可能性のある援助』という文章に背中を押されて講座当日を迎えました。
講座当日、会場に入ると5~6名のグループ席が配置されていました。講座は小澤先生の講義と、グループ学習を通しての実践でした。
講義の中で特に印象に残ったのは、人生の最終段階に共通する自然経過についてのお話でした。誰にもおとずれる命の最期の時に至るまでをリアルに認識できました。死を迎えることは知っていても、実際に日々近くで見ていなければそこに向かうまでの変化、赤ちゃんに戻っていく現実を想像することはありませんでした。62歳の今、この現実を再認識できたことは、今後の自分自身にとても有意義であるように思いました。
グループ学習での初めての事例検討では、事例の患者さんのケースが過去の自分の闘病経験と似ている点が多く、援助者としての立場より、すっかり患者さんの立場にたったつもりで思いつくままを言葉にすることしかできませんでした。同じ事例に対しても、各グループごとに苦しみや支えのキャッチ、支えを強める方策を言葉にする方法はそれぞれであることもわかり、事例検討に至るまでの患者さんとの関わり、患者さんにとって`わかってくれる人になれているのか、患者さんの思いを聴くことができているのかがとても重要であることを認識しました。また一方で、たまたま持つ自分の経験は自分のものでしかなく、苦しみも支えも、たとえ似た状況であっても決して同じであることはなく、その人その人それぞれで、こちらの勝手な思い込みほど相手を遠ざけ、その人の穏やかさとはかけ離れていってしまうのでは?と気づくこともできました。
ロールプレイはとても難しく感じられました。ロールプレイそのものが苦手なこともありましたが、それでもなんとか取り組めたのは、グループの皆さん、特にファシリテーターさんのおかげでした。
聴き役の時の『反復』と『沈黙』の実際の難しさは、想像を超えていました。そこに問いかけが加わり、苦しかった時の振り返りや、支えについての問いかけや対話など、進めていくほど『反復』が難しくなりました。つい自分のものさしで相手の感情を先取りした言葉を発してしまったり、『反復』することにもどかしさを感じてきたりして、聴く側の自分の心境に揺れが生じてしまうことを経験しました。また『沈黙』は、実際の時にはもっと長く、結局相手の言葉が聴けないこともあるように思いました。
患者役の時には、『沈黙』の間を聴き役の時ほど長く感じないことや、聴き役の顔つき、姿勢、声のトーンなど話し易い雰囲気の大切さも、実際の対面でのロールプレイでこその空気感を感じながら経験することができました。
初参加の私には、『反復』と『沈黙』で精いっぱいでした。苦しみと支えのキャッチにつながる『問いかけ』ができるようになるには、この学びの継続と経験が必要だと強く感じました。
講座受講後の帰り道、『受講して本当に良かった』と呟きながら歩いていました。その時は頭の中がいっぱいで、何がどう?とまでは整理されていませんでした。
時間の経過とともに、講座での学びを通して個人的な振り返りや、仕事の中で活かせることを考えるようになりました。
自分がこれから年齢を重ねていく中で、例えば介護をする側だけでなく、される側になっていく前にこの学びの機会を得られたことはとてもよかったと思っています。自分にとっての『選ぶことのできる自由』はどんなだろう?、困難に向き合う時、それでも穏やかでいられる支えは何だろう?その時々のタイミングで変化はあると思いますが、そうした?を意識していたいです。また、かつて大病を患い乗り越えた後に、泣くほどに嬉しかった当たり前の大切さ、日常や周囲のモノや人、生きていることのすごさなど、当時はそのひとつ一つが喜びだと思っていたのに、時間の経過とともに薄れて忘れてしまっていた自分にも気づかされました。
カフェのカウンターでの接客にしても、講習での講師にしても、お客さまや生徒さんとのコミュニケーションはとても重要です。皆さんのほとんどがお元気で、普通に生活できる方ばかりですが、それでも辛いこと、苦しいことや悲しいことをお話になる方もいらっしゃいます。これまでは、何と言って差し上げようか、励ましの言葉をぐるぐると頭の中で探したり、無責任な大丈夫を言うことしかできませんでした。しかしそんな時こそ、今回のエンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座での学びが活かせる時です、以前よりは少し自信を持って関われるようでありたいと思います。そして、相手にとって聴いてくれる人(私)でいたいと思います。
私の仕事は、お茶を通して『健康』と『幸せ』(Well-being)を目指しお伝えすることです。『お茶の時間』がもたらす笑顔や幸せを伝えていくことです。
この度の受講後に一つ、私の考える『お茶の時間』に新たなイメージが加わりました。それは、飲み物が飲めている時ばかりでなく、これまでのように飲めなくなった方にも囲める『お茶の時間』、その方が『お茶の時間』の中にあって、穏やかに微笑むことができている、そんなひとときのイメージです。
そうしたことを心に留めながら人に、仕事に向き合っていこうと思います。
エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。
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