コラム132:緩和ケア病棟看護師の苦悩~患者さん、ご家族が穏やかに過ごせるように~

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緩和ケア病棟看護師

Y.M. さま

(ELC147回生)

講座を学ぼうと思った患者とのエピソード


数年前 ある40代の終末期患者さんと出会いました。

 

その方は「自分の人生はちっぽけ。医療者を見てると本当に尊敬する。私も人のためになることをして生きたら良かった。」と自身の価値を落とし、人生の意味をなくして生きていました。


私は、人はその人として大事な存在で、誰とも比べられないのに、一生懸命人生を生きて、そう思う必要はないのに、と、とてももどかしい思いになりました。

 

それで、私の思いを伝えてみましたが、相手の思いはどうすることもできず亡くなりました。あまりに虚しい出来事で、私になにかできることはなかったのかと、精神療法の本を探っていたところ、ディグニティセラピーを知り、エンドオブライフ・ケア協会のディグニティセラピー講座を見つけて参加するようになりました。

 

参加して気づいたことは、相手の紡ぎだす言葉ひとつひとつには意味があり、その背景には一言で言い表すことができない歴史が大きく広がっているんだということ、また同時期に亡くなった母のことも思い出し、「私は相手のことを全然わかっていなかった!」と衝撃を受けました。それからもっと学びたい思いでエンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座に参加し、その効果はワークショップを重ねる毎に実感し感激しました。

 

 

学んだことを実践し、現場や身近な関係性が変化した


私は緩和ケア病棟に務めていますが、ゆったりとした時間が流れるというよりは、毎日めまぐるしく忙しいことのほうが多いです。スタッフも患者さんとの時間を過ごしたいと思いながらどうしても時間に追われ業務優先になってしまうことがあり、言葉や対応がきつくなってしまうこともあれば、困難事例とされる人には足が遠のいてしまっていました。


そんな状況ではありましたが、検温や清拭等の少しの時間、学んだことをもって関わってみると、相手から返ってくる言葉が変わり、話の内容に深みを増すようになりました。


私も嬉しく思いつつ、看護記録に残すと、その後数人の看護師や医師、心理士から「どうやったらそういう会話になるのか」「他の人と記録が違う」「私には全然そんな話をしない」といった反応を聞くようになりました。夜勤で時間があるときには、患者さんとのスピリチュアルな関わりについて質問が来ることも増えました。

 

そんな中、関わりに悩んでいた看護師に『死を前にした人にあなたは何ができますか(著者 小澤竹俊)』を紹介したところ「関わり方がわからないから足が遠のいてしまっているんやな。私だけではなく、ほぼみんな。だからみんなでその患者さん(スピリチュアルペインだけでなく精神疾患もある方)が悪いような言い方をしてるけど、結局は自分たちが彼女を受け止めて介入する方法がわからないから、そういう行動に出るんやな。知識も経験もない中で看ていたことを痛感する。」と連絡をもらうようになりました。

 

緩和ケア病棟で看護の質をよくするためにどうすれば良いのか悩み、環境のせい、人のせいにもしてきましたが、私の変化が周りに良い影響を与えることを実感し、嬉しさと同時に小さな希望をもつようになりました。

 

 

これからの思い

 

緩和ケア病棟の理想とかけ離れた現実に不満を言うばかりでしたが、まずは《自分が確かな方法で、誠実に目の前の患者さんと関わり続けること》が重要なことなのだと気づくようになりました。そうすれば、自分が火種となって患者さんだけではなく、自然に周りに変化も起きていきます。しかしながら、スタッフもそれぞれ背景があり、前述したスタッフのように皆が皆同じように感じて実践することは難しいのも確かです。それを念頭に持続可能なケアを考えて繋げていくこと、また援助的コミュニケーションは特別な人だけができる関わりではない、誰にでもできることだということも伝えていけたらいいなと思います。

 

 

最後に

私は以前ホスピスで働いていました。その時20代の男性患者さんで完治を目標に、緩和ケアを受けながら命ぎりぎりまで治療をしていた方がいらっしゃいました。


発熱や痛みに悶え、生きる意味を問いながら、毎日不安を抱え、それでも楽しみを忘れないようにと過ごし、私たちも一緒の思いで戦っていました。病院を色々変えてみましたが、結局完治には至らず、緩和ケア医と看護師2人で最後の入院先となった病室を訪ねたことがあります。訪問時から浮かない表情を浮かべていた彼だったのですが、私たちが思い出話をし始めると、クスクスと笑い始めたのです。その時担当医がびっくりした顔で「まだ笑える力が残ってたんだ!」と驚きを隠せず、母親も久々の笑顔を見て嬉しがっていました。緩和ケア医は「これが看護師さんの力です。」と話し、本人が息をつなぎながら、「〇〇病院(ホスピス)の時は辛かったけど、みんなのおかげで本当に楽しかった。それが思い出です。」と話してくれました。その翌日、彼は息を引き取りました。

 

今思えば、看護師の力ということではなく《看護師》の立場よりは《ひとりの人》として関わり、そして《病気》よりは《彼》として見ていたことが、援助的コミュニケーションのような関わりとなり、彼がわかってくれている人と認識してくれたこと、心が解放された瞬間だったのかなと思います。

 

『人は最後まで笑える力がある』

 

彼を通して教わったこのことを信じ、講義で学んだ大切な心構えとスキルをもって、より一層患者さん、ご家族が穏やかな時間を過ごせるよう関わっていきたいと思います。

 

#ユニバーサルホスピスマインド

#エンドオブライフ・ケア

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