地域医療振興協会 市立病院大村市民病院 手術室所属
生島 野乃花さま
高齢化の進行により65歳以上の高齢者が5人に1人と言われる世の中です。また、認知症の方は多く、看護師として勤務する中で、高齢者・認知症の患者さんと関わる機会も多く、高齢者や認知症について正しく理解したいと思い、院内で開催された認知症看護特定認定看護師(認定ELCファシリテーターである同病院所属の河野裕見子さん)による講義を受講しました。
講義では「反復」「沈黙」というコミュニケーション技法について学びました。反復とは「相手の伝えたいメッセージ(言葉)をそのまま返す」こと。反復の主語は相手で、自分の言葉を伝えられたことによって、相手が「私のことを理解してくれた」と思い安心感につながる可能性があります。また、感情の先取りは行わないようにするべきだと学びました。
自分自身を振り返ると「お風呂に入って体力を使いました」との発言に対し「お風呂で疲れてきつかったですね」と返したことがあります。すると患者さんは「何もしない入院中、お風呂はいい疲労です。スッキリしたのできつくはないです」との返事がありました。お風呂に入ることが体力を使う動作だったのは事実ですが、きついとは感じてなかったため反復しては相手の言葉そのまま返すことが重要だったと感じました。
沈黙とは「相手の心の準備ができるのを待つ時間」であり、人は大切なことを話すときにはエネルギーを必要とするため時間が必要です。間を取ることと、沈黙で相手の言葉が出るのを待つことには違いがあることも感じました。沈黙の時間は患者さんにとっては悪いことではないということを知りました。今までは沈黙の時間を何か話さなければ、解決策を出さなければ不安を与えてしまうと考えていましたが、ロールプレイを実施し患者役をしてみると、もう少し考える時間があれば、こちらの気持ちを言い出しやすくなることを実感しました。
今回、反復や沈黙のコミュニケーション技法の学びを通して、これまでは「患者の訴えを解決したい」という気持ちが先行して、私が答をすでに準備していたことに気が付きました。また、こちらからの質問ばかりの関わりになると、質問の答えしか聞き取れず、相手の本当の気持ちを聞き出すことが不可能となります。
高齢者や認知症患者さんは、本人が上手く伝えられなかったり、昨日と今日で違ったり、こうすれば必ず上手くいくという絶対的方法もありません。正直、ケアには少し苦手意識があります。しかし、認知症による行動・心理症状は生活環境や、周りの関わり方を工夫することで症状を和らげることができると言われています。一方的なコミュニケーションにならないよう表情などの非言語的コミュニケーションや学んだ反復や沈黙の技法を用いて安心感を与え、より良い関係の構築を築いていきたいです。
現在、私は手術室に勤務して5年目になります。手術は誰の人生の中でも大きな出来事です。周術期の患者さんは身体的な苦痛だけでなく不安や孤独といった精神的な苦痛も抱えているかもしれません。手術室へ来る地点で同意して来ている訳ですから、今さら細かい説明や説得はいらないのではないかと思います。事務的で質問や確認ばかりの配慮ない言葉が「心の痛みの原因」になってしまうとしたら、とても辛いことです。高齢者や認知症のある方の場合は、説明されていても当日になると思い出せないこともあります。
そんな患者さんの不安や苦しみを支えるために、今回学んだ反復や沈黙のコミュニケーション技法を用いながら、患者さんから見て「あぁこの手術室の看護師さんは私のことをわかってくれるなぁ」と感じてもらえるような看護を実践していきたいと思います。少しでも穏やかに周術期を過ごすことができるよう、救いの存在になれればいいなと思っています。
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