株式会社いきがいクリエーション 在宅ホスピスいきがいの家 看護師
平川恵子さま
2024年7月にお家のような居心地の良さ、病院のような安心感が備わった在宅ホスピス“いきがいの家”がOPENしました。癌の終末期、人生の最終段階の方々が共同生活しています。その場所にOPENと同時に入居されたキミ子さん。
癌の終末期の段階だったので、2ヵ月弱で旅立たれましたが、今でも私の心の中にはキミ子さんがいます。
キミ子さんは長期入院されていましたが、「最期は1人で自由に暮らしたい」といきがいの家に来られました。入居の日は眠れず、夜通し、夜勤の看護師と紅茶とアップルパイを食べながら色々お話をしてくれました。残りの人生をここで穏やかに過ごしてくれそうだなと感じていたのですが、翌日には「もう帰る!」と怒っていました。話を聞いてみると、お部屋で眠っているキミ子さんに、良かれと思って声をかけに行ったり、体調が悪いのかと思いバイタル測定をした事に対して怒っていました。髪をブラッシングしたり、お顔を拭くのもこちらのペースですると嫌がりました。その日からスタッフで話し合い、キミ子さんのペースに合わせた接し方をしました。
そうすることで、徐々に心を開いてくれるようになり、ダイニングでお食事をとりながら、楽しい会話をしてくれるようになりました。その中でも印象に残っているのは、ディグニティセラピーの質問の中にもある「今までの人生で一番生き生きしていた時はいつですか?」と尋ねた時の事です。キミ子さんは「私は今が一番。」「後ろは見ない。悔いはない。」と即答されました。人生の最終段階である癌終末期の方が「今が一番」と言った意味、とても深く重く感じました。本当の意味はキミ子さんにしか分からない、でもその言葉を言った時のキミ子さんの目には強い意志を感じました。癌と告知された時、キミ子さんは「人生は太く、短く。人生に悔いはない。」と言ったと、入院されていた病院の相談員さんから聞きました。
他にもキミ子さん語録はたくさんありました。
「人生好きな事をやりなさい。」
「音楽してる人は心が豊か」
「人生は根性と意地で生き抜く。」
「私はみんなに嫌われてきた。パッと咲いてパッと散るだけさ。」
キミ子さんは若い頃、モデルのお仕事をしたり、料亭経営をされていた時期もあったそうです。料亭でメイドを数名雇っていた頃の事をお話してくれる事が度々ありました。「稼いだお金でメイド連れておいしいものを食べに行った。」「若いメイドはみんな喜んでいたよ。」と生き生きした目で話してくれました。
ある日、キミ子さんが「いい魚を買ってきて魚汁を作って食べたい」と言いました。それを聞いたスタッフは翌日、魚汁を作りました。キミ子さんをダイニングに呼んで食べてもらいました。「おいしいね」と食べてくれましたが、その翌日キミ子さんに魚汁のお話をすると、「私にはあたらなかった。食べてない。」と仰ったので、忘れてしまったのかと思い、昨日の魚汁を温めてテーブルに出すと、「魚は嫌いだから入れないで。」と険しい顔をして、何かに怒っているようでした。キミ子さんが魚汁をリクエストしたのに、なぜ怒っているのかその時は理解できませんでした。
その数週間後、キミ子さんがまた「魚汁を作ってみんなで食べよう」と言い始めました。前回の魚汁の一件があるため、不思議に思いながら再度魚汁の材料を買って来ました。そして今回は、キミ子さんもキッチンに来てもらい、キミ子さんの手ほどきを受けながら、一緒にスタッフが魚汁を作りました。「いただきます。」とキミ子さんに声をかけて美味しく一緒にいただきました。その時のキミ子さんは、「どうぞ、食べて」と満足そうな、どこか得意げな表情でした。
そこで気づきました。
キミ子さんは魚汁を食べたくて「魚汁を作ろう」と言った訳ではなく、私たちスタッフにおいしい魚汁を振舞いたかったんです。“食べたい”ではなく、みんなに“食べてもらいたい”だったのです。
その3日後、キミ子さんはお亡くなりになりました。
最期まで弱音を吐かず強くてかっこいいキミ子さんでした。
キミ子さんから、私たちスタッフはたくさん教えられました。医療・介護現場ではよく見かける事ではありますが、こちら側が良かれと思いケアをする場面。ご本人がそれを必要としているのかどうか、ご本人が穏やかでいられるためにはケアを与える事だけが大切ではない事を教えられました。
尊厳を守るケア、その人がその人らしく生きることができるようにしていくことの大切さを改めて教えてもらいました。その人らしくを叶えるためには何が必要か、日々対話を重ねて見つけていくことが必要だと感じました。
キミ子さんとの出会いに感謝です。ありがとうございました。
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