コラム137:「分けてあげたいくらい幸せ」~人工呼吸器と共に生きる女性が教えてくれたこと~

  • 支える人の支え
  • 尊厳
  • わかってくれる人がいるとうれしい
  • 認める

医療法人浜友会 訪問看護ステーションつむぐ

髙田 賞子さま

(鹿児島IH受講生、認定ELC援助士)

 私はエンドオブライフ・ケア協会の認定援助士として、「わかってくれる人がいるという安心感」と「心の穏やかさ」を大切に、日々訪問看護に取り組んでいます。 


 その中で出会ったのが、40代の女性患者様でした。彼女は炎症性腸疾患に伴う低栄養とⅡ型呼吸不全のため、中心静脈栄養と人工呼吸器の管理を受けながら、ご両親の介護のもとで寝たきりの生活を送っていました。当初は医療への不信感が強く、コミュニケーションが難しい状況からのスタートでした。 


 まずは私が担当として訪問を続け、援助的コミュニケーションを重ねることで、少しずつ関係性を築いていきました。医療を受けたくない想いと、呼吸器や栄養管理なしでは生きられない現実との間で、彼女が苦しい胸の内を吐露されることもありました。 


 丁寧な関わりを続けるうち、徐々に多職種と連携できるまでになりました。そんな日常の会話の中で「コスモスを見に行きたい」という希望が語られたのです。その願いを叶えるため、多職種で外出計画を立案。ご両親も大変喜ばれ、お父様が手作りのスロープを準備してくださるほどでした。 


 一年以上ぶりとなった外出当日、彼女は「風を感じることができた」と嬉し涙を流しました。同行したご両親、そして関わったスタッフ全員が、笑顔あふれる時間を共有できたのです。その日の彼女のSNSには、次の言葉が投稿されていました。「車いすでも呼吸器ついてても、最愛サポーターズに囲まれて誰かに分けてあげたいくらいしあわせなんです」。後日、第二弾として計画した花見の後には、「こんなに支えて生かしてもらっている。すぐいじける私を笑顔で包んでくれる愛しい人たち、けんかしながらも支え続けてくれる両親。私の頼もしいアベンジャーズ」という投稿もありました。 


 この患者様は、ご自身の姿を通して「苦しいけど、幸せだよ」と私たちに教えてくれました。「なぜ私がこんな目に」と苦しむ時でも、自分の辛さを理解してくれる存在が心を穏やかにすることを示してくださったのです。心から自分を認めてくれる誰かとの繋がりは、「このままでいいんだ」と自分の存在を肯定できる確かな力になります。 


 この外出で病状が改善したわけではありません。しかし、この経験がきっかけとなり、苦しい状況にあるからこそ周囲の支えの温かさに気づき、それがご本人の生きる力となって、人生の意味や希望を再構築できたのだと考えます。その結果が「分けてあげたいくらい幸せ」という言葉に繋がったのでしょう。そして、ご本人だけでなく、支えるご家族や私たちスタッフもまた、幸せを感じるひとときでした。 


 この事例を通して、心の穏やかさや幸福感に目を向けること、そして一人ひとりの存在を肯定する関わりを丁寧に続けることの重要性を改めて学びました。これからも、関わらせていただく方々の思い、生きる意味、そして希望に寄り添っていきたいと思います。 
 

エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。

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