居宅介護支援事業所 介護支援専門員
小澤 京子さま
(認定ともにんファシリテーター)
私は居宅のケアマネージャーとして静岡県で働きながら、和歌山県に住む母の遠距離介護をしています。母は3年前にアルツハイマー型認知症と診断されました。今は一人での生活が難しく、介護サービスを利用し、近くに住む叔母、妹弟と協力して母の生活を支えています。
思えば、母もまた介護をする人でした。夫を早くに亡くし、楽器店を切り盛りしながら認知症になった義母を98歳まで在宅で介護をしていました。当時の母を支えていたのが店に来てくれていた地元出身の歌手、坂本冬美さんの活躍でした。介護の日々の中でも、ヒット曲のCDが売れること、TVでのうた声を聴くことが張り合いになっていたのだと思います。
母の変化に気づいたのは2022年。娘の結婚式に一緒に行った半年後でした。「何かおかしい」と感じて受診をしました。しっかり者で手先が器用な母が、まさかこんなに早く認知症になるとは思ってもいませんでした。今度は私も介護をする立場となり、自分たちの生活を見直す必要がでてきました。
そんな中、昨年10月、母が夜中の1時半、道端で倒れているところを保護されたと一報を受けました。一歩間違えば、海や川、山の中へ歩いて行ってしまう可能性もありました。母が無事だったのは、倒れていた場所がたまたま介護施設の前で、夜勤の方が気づき、施設長さんの機転で母を送り届けてくれたおかげです。認知症のある方のひとり歩きで行方不明になったり、命を落としたりされる方もいます。「あれ、大丈夫かな?」という細やかな気づきや行動で、命が守られることがあると痛感しました。
母が認知症と診断される前は、私は仕事があるからと年に一度帰省する程度でした。今はできるだけ毎月帰省するよう心がけ、おかげで母と過ごす時間が増え、今までとは違う景色が見えるようになりました。7月に帰省したとき、娘一家も孫を連れて来てくれました。その時、一人で走りだす3歳の孫に私が「ひーおばあちゃんのこと、転ばないように見てね。」とお願いすると、曾祖母である母の手を引いてゆっくり歩いてくれました。その姿があまりにも愛おしく、私はとても温かな気持ちになりました。ちょっとした仕草、関わりが誰かの支えになるのだと感じます。

先日、坂本冬美さんの40周年記念リサイタルに弟と計画して母と一緒に行ってきました。母の推定意思に沿っているのかはわかりません。母が輝いていた頃を思うと、きっと応援に行きたいのではないかと考えました。10年前の30周年記念公演の時、母は一緒に応援をしていた高齢の友人を連れていくことに躊躇していました。そのとき背中を押してくれたのが、小澤竹俊先生の『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』の本でした。迷いながらも思い切って出かけたことで、「あの時、行って良かった」と、思える大切な思い出ができました。そんな経験もあり、不安や心配もありましたが、今回、母と一緒に大阪まで出かけることを決めました。
リサイタルの中で、中島みゆきさんの「糸」を披露してくれました。その歌を聴きながら母のことを思いました。人は、今この瞬間だけで存在しているのではない。これまで誰かと出会い、誰かに支えられ、誰かを支えてきた。その一つひとつが糸のようにつながって今の人生があるのだと。長い年月をかけて紡いできたその人らしさは、言葉にできなくても、表情や仕草、好きなもの、関係性の中に残っているのだと思います。母と一緒に歌を聴き、ステージを集中して見ている母の姿に、思い切ってリサイタルに来て良かったと思いました。
認知症になると、できなくなることが増えていきます。母は、言葉がうまく出ないこと、会話にならないこと、トイレの動作やご飯を食べること、家族のことも忘れてしまうこともあります。でも母の歩んできた日々を振り返ると、誰かの人生に少しでも関わっている、素敵な役割を持っていたのだと感じます。私が認知症ケアや介護について学ぶきっかけにもなり、私の今の仕事にも繋がっているのです。
いま、母は自分が認知症だとは思わず自宅で暮らしています。いつも「困ってないよ」と言います。子供達や周りに「迷惑をかけたくない」と思っているのでしょう。いつまでこの暮らしを続けられるのかはわかりません。介護に正解はなく、日々迷いながらです。今はできるだけ母と一緒に過ごし、きれいな景色に感動したり、美味しいものを食べたりして思い出貯金を増やしていきたいと思っています。

私はELCに出会い、ユニバーサル・ホスピスマインドについて知ることができました。今回研修に参加した「ともにん」が大切にしている「わかってくれる人がいるとうれしい」「苦しみから支えに気づく」「自分を認め、大切にする」を実践し、少しでも伝えていくことで、新しい糸を紡いでいきたいと思います。
エンドオブライフ・ケア協会では、このような学び・気づきの機会となる研修やイベントを開催しております。活動を応援してくださる方は、よろしければこちらから会員登録をお願いします。
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